【書籍化・コミカライズ】鬼騎士団長様がキュートな乙女系カフェに毎朝コーヒーを飲みに来ます。……平凡な私を溺愛しているからって、本気ですか?
馬車の中で、寝泊まりするのかと思っていたら、用意周到な騎士団長様は、宿をとっていた。
「すごく可愛らしいですね」
「ああ、泊まったことはなかったが、目を引くな」
赤い屋根に白い壁。
丸い扉と茶色に縁取られた窓は、この地区全体おそろいのデザインのようだ。
そっと触れたドアノブは、年代を感じさせる少しくすんだ金色をしている。
「カフェフローラの、テーマになっていたことがあります」
「ああ、あの日の赤いスカートに白いブラウス、そして茶色のコルセットベルトをしたリティリア嬢は、とても愛らしかった」
「……よく覚えていますね?」
私でも、服装までは思い出せなかったのに。
そういえば、あの日の制服は、このあたりの民族衣装を元にしたと、オーナーが言っていたかもしれないわ。
「いつかリティリア嬢と、本物を見に行きたいと思っているからな……」
「わ、素敵ですね!」
騎士団長様との旅は、王都からレトリック男爵領までのそこまで遠くない距離でも胸が躍る。
オーナーが見たという世界の果てにだって、騎士団長様となら行ってみたい。
オーロラと満天の星が見えるという、世界の果ての大空。
「そうだな。いつかオーロラを見に行こうか……」
「騎士団長様?」
「あのとき手を伸ばしていた、星屑の光を、手に入れてあげよう」
――――銀の薔薇をもらう直前に、騎士団長様が捕まえてくれた星屑の光。
もちろん、いただいた銀の薔薇は、壊れないように箱に入れて、リュックの中に入っている。
「……リティリア嬢さえよければだが」
「もちろん! 騎士団長様となら、どこまでも一緒に行きたいです」
「そうか……。では、全力で休暇を取ろう」
騎士団長様は、冗談めかしてそんなことを言うと、宿泊受付へと向かう。