竜人様に拾われました~転生養女は現世でも妻として愛されたい~


「いよいよだね、きずな君」


 逢璃が緊張の面持ちでそう口にする。手には少しばかり張りのある紙が一枚握られている。俺達の婚姻届だ。

 たかが紙切れ。されど紙切れ。

 この、たった1枚の紙切れで、俺達は今日夫婦になる。
 逢璃には言わないけど、俺も内心ドキドキしていた。

 これまでだって二人で一緒に住んでいたし、別に何かが変わるわけじゃない。それでも、逢璃が俺の妻になる――――そのことが嬉しくて堪らなかった。


「おめでとうございます」


 窓口で婚姻届けが受理され、俺達は顔を見合わせて笑う。胸がじーーんと温かくなった。


「これで、きずな君がわたしの『旦那様』になったんだねっ」


 逢璃はそう言って涙を流した。
 二人固く手を繋いで、役所の周りを何ともなしに歩く。本当に夫婦になったんだな――そう実感する。


「旦那様」

「……うん」

「旦那様っ」


 逢璃が嬉しそうに、何度も何度もそう口にする。
 嬉しかった。幸せだった。
 この世の全ての幸せを凝縮したみたいな、温かくて何にも代えがたい瞬間だった。


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