月下の君には秘密です。


俺は販売機に小銭を入れると、『温かいココア』のボタンを二回押した。

体を屈めて取り出し口から二本のココアを手に取ると、一本を紗季に差し出す。


「…はぃ…。」

「何ッ、あはは!ワイロ!?」

紗季はそう笑いながら、缶を受け取った。


「…ワイロなんてくれなくても、アタシ言わないのにっ。」

――…知ってる。

ただ、ちょっと…
紗季に優しくしたくなった。


紗季は缶を両手に包んで、
『あったかいね』って、嬉しそうにしていた。


自動販売機の横には、
ベンチが置いてあって。

紗季はそこに勢い良く座ると、自分の横に座る様にベンチをパンパンと叩く。

俺は、ははッと笑ってそこへ座って花火を見上げた。


「…アタシ、やっぱアッキー好きだわッ。」

ココアの缶を開けようとしていた俺の指が、プルトップの前で止まった。


「……へっ!?」

「…そんな驚かなくても。前にも言ったじゃん!気に入っちゃったって。」

いや、あれは友達としてかと思って…

これは、何?
告白…?

えッ、俺!?

でも…


「…俺は、まだ…井上の事が好きだから…」

そのセリフを言ったら、
涙が出てきた。

初めて、口に出したから。


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