月下の君には秘密です。


今まで、
言えなかった言葉。

『井上が好き』

それを言葉に出しただけ。

……なのに、

急に胸が苦しくなって。
涙が出てきてしまった…。


「…あれッ…、ちょっ…、タイム!タイムねッ!?」

俺は焦って、
自分の涙にビックリして。

座ったまま紗季に背を向けた。
一生懸命、必死になって…
俺は涙を拭っていた。


「……知ってる。」

紗季は俺の背中でそう言って。

静かに…
そっと俺の背中に寄り添って、
俺の頭をポンポンと撫でた。


その優しさが、
身に染みてしまって…

泣きたいのは、
振られた紗季の方だろうに、
女の子の方が傷付くだろうに…。


「……ごめッ…」

俺は、
しばらくの間、

紗季の優しさに甘えてしまった。


< 127 / 160 >

この作品をシェア

pagetop