月下の君には秘密です。
売り言葉に買い言葉。
言わなければいいのに、
俺もカッとなって、つい応戦してしまう。
俺は月ちゃんと違って短気だからね。
「――聞いてよ、月ちゃん!井上だって学校じゃ全然大人しいんだぜッ!?笑顔で猫かぶっちゃってさぁッ!」
「…かぶってない!」
「かぶってんじゃん。良い人ぶっちゃってさぁッ!」
俺は、そこまで言ってからハッと後悔した。
今さら後悔しても遅い。
「…良い人ぶってなんか、……ないもん。」
井上は顔を赤くして、
その瞳は少し潤んでいて…
――…言い過ぎた…
ヤバイ。
泣かした…
井上は…、
中学時代に一部の女子から『仲間外れ』にされていた。
普段は何も言わないけれど、
その事が多分トラウマになっていて、笑顔で相手に合わせてしまう癖がある。
俺はそれに気付いているのに、
知っていたのに…
……俺のバカ。
「…あぁ、もう。お前らは相変わらずだなぁ…?」
月ちゃんはそう呆れながら立ち上がって、上から井上の髪をよしよしと撫でる。
その手はとても優しくて、
その顔は目を細めて、とても穏やかで…
そのポジションにいつも憧れるんだけど、
俺には昔から向いてない。