虜にさせてみて?
聞いてもはぐらかされてきたので、さっちゃんの恋愛話を初めて聞いた。

美奈に反撃された、さっちゃんの顔は耳まで真っ赤になり本当に可愛い。

この様子じゃ、きっと自分の恋愛話は苦手だから隠していたのかもね?

ワイワイと騒ぎながら、新しい寮に着くと…三枝さんもお引っ越しの最中らしく、せかせかと動いて居た。

「お疲れ様です」

私達を見るなり、無表情で挨拶をして、部屋のドアノブを思いっきり閉めてから姿を隠した三枝さん。

「う、うわぁっ」

「ひより、何を驚いてるの? 後輩に負けてどうするの?」

「だ、だって」

美奈とさっちゃんも一緒なのに、構わずに威圧的な態度を取るから驚きを隠せない。

日を重ねる事に、三枝さんの“私嫌い”は増していく。

響と付き合い出してから、余計に感じる視線と冷たい態度。

嫌いな奴にお気に入りを奪われて、余計に面白くないのかもしれないのが身にしみて分かる。

しかし、接点もあまりなかったのに、この嫌われようはある意味、凄いよね。

「しょうがないなぁっ。おいっ、三枝っ、開けろっ!」

三枝さんの態度を見て、さっちゃんがいきなり、ドアを叩いて声を張り上げた。

「うるさいんですけど、何ですか?」

不機嫌そうに渋々とドアを開けて顔を出した三枝さんは、さっちゃんに対しても横柄な態度を取った。

「私がオーベルジュで働いている間に、お前のその根性を叩き直してやるからな。なんなら、事務所からレストランに移動させてやろうか?」

玄関先で怒りを露にしているさっちゃんに、動じない三枝さんは更に反撃。

「そんな権利、あるんですか?」

「ある。覚えてろ、三枝っ!」

「じゃあ、響さんに遠慮なく近付けますね、ご配慮、ありがとうございますっ」

反省の色もなく、ニッコリと微笑んでドアを思い切り閉めた。

さっちゃんの怒りは収まらず、三枝さんの部屋のドアを蹴った。

「マジでムカつくわ、あの小娘!完全になめてるな」

新しいドアは凹みはしなかったものの、足跡がベッタリと付いた。

「あんな馬鹿は気にしないで、いいからね。そのうち、アイツの根性を叩き直してやるんだからっ」

意気込んでいるさっちゃんだけれども、私はは三枝さんが部署移動して来たら微妙だよ。

どう接したら良いの?

「あ、言ってなかったけど、来年の4月からチーフ候補なんだ。それから、まだ言えないけど、何名か、ホテルのグループ内での人事移動もあるらしい。頑張れよ、ひよりっ」

バシンッと背中を叩かれて、持っている荷物を落としそうになる。

「おめでとう、さっちゃん」

さっちゃんがチーフか。

仕事も申し分なく出来るし、頭は切れるし、人の使い方も上手いから納得だ。

それに何より、気配り上手だからチーフになるのは大歓迎だよ。

更なる飛躍を応援したい。
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