君を愛せないと言った冷徹御曹司は、かりそめ妻に秘めた恋情を刻む
私にできることならなんでもして、恩を返したいという気持ちに偽りはない。

でも郁人さんにとって不幸でしかない結婚に、うなずくわけにはいかないのだ。

どうしよう……どうしたら……。

「……では、私だけじゃなく、郁人さんも無理だと言った場合は破談にしてもらえますか?」

「わかった。君と郁人の双方が難色を示すのなら諦めよう」

間違いなく郁人さんは結婚を望まないから、私はなんとかそれで合意した。


リビングに戻ると、郁人さんと真紘さんがソファに隣り合わせで座っていた。なにか話していたのだろうか。

「みちるちゃん、おかえり。待ってたよ」

真紘さんは笑みを浮かべた。

郁人さんは憮然としていて、にこりともしない。

「父さんに言いくるめられた? ああ見えてなかなかの狸親父だっただろ。正直俺もなんで兄さんがみちるちゃんと結婚? って不思議ではあるよ。みちるちゃんって元々母さんの親友の娘で、今はもう身寄りがないんだろ。俺、兄さんは藤間(とうま)家の史乃(ふみの)さんと政略結婚するんだろうなって思ってたし」

真紘さんの口調は柔らかいけれど、遠慮のない物言いだった。

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