君を愛せないと言った冷徹御曹司は、かりそめ妻に秘めた恋情を刻む
「まあ……そうなのですね……」

彼女たちは困惑を隠しきれないようだった。そんなにも高卒がめずらしいのだろうか。

「みちるさんは母子家庭で、とてもご苦労されてお育ちになったようですわ」

私を憐れむように見据えながら、史乃さんが言い添えた。やはり私のことをなんでも知っているようだ。

「母子家庭はその通りですが、苦労はしていません」

でもそれだけはすぐに否定した。史乃さんにしてみれば貧しい暮らしでも、私はなに不自由なく育ててもらったからだ。

「あら、ご気分を悪くされたのでしたらごめんなさい。長年ご自宅でお母さまの看病をされていたようですから、お気の毒に思っただけですのよ」

平然と続けた史乃さんに、私は硬直した。

「母子家庭の上、ご自宅で看病を?」

「昨今の社会問題になっているヤングケアラーだったのかしら?」

一斉に、私に同情の目が向けられた。

「そんなよろしくないお家柄の方と、いったいどうして郁人さんが……」

……やめて。私はもうなにを言われてもいいから。だから郁人さんの名前を出さないで。

彼の足を引っ張りたくない、そう思えば思うほど頭の中が真っ白になる。

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