君を愛せないと言った冷徹御曹司は、かりそめ妻に秘めた恋情を刻む
愛せないときっぱり言われたのに、未練がましいにもほどがあるけれど。

郁人さんは瞬きも忘れたかのように硬直していた。

「郁人さん?」

「……ああ」

思い詰めた表情でそれ以上なにも言わない彼に、私は首をかしげる。

どうかしたのだろうか。

「お待たせいたしました」

店員さんが料理を運んできてくれ、話は中断された。

おいしいランチとケーキまで堪能し、大満足する。

食事を終えると、海はすぐそこだから歩いて向かおうとレストランをあとにした。

「子どもの泣き声がする」

建物を出て少し進んだところで、郁人さんが眉をひそめた。

周囲を見回すも、子どもの姿は見つけられない。

「どこからでしょう?」

「あそこだ」

シュロの木の陰に、三歳くらいの男の子がしゃがみ込んでいた。水色のシャツに蝶ネクタイ、ハーフパンツを穿いている。

近づくと、潤んだ真ん丸な目で郁人さんを見上げてきた。

「パパ!」

「パパ?」

私は思わず復唱してしまう。

「パパに似てるか?」

郁人さんが微笑みかけると、男の子は彼にぎゅっと抱きついた。

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