君を愛せないと言った冷徹御曹司は、かりそめ妻に秘めた恋情を刻む
「郁人さん、この建物のすぐ隣にチャペルが見えたのですが、もしかして四階は今日、結婚披露パーティーをしているのですか?」

「そのようだな」

「あっ、鐘の音がします」

リンゴーン、リンゴーンとカリヨンの響きが聞こえてきた。誰かが結婚式を挙げているようだ。

幸せな音色に、頬が緩む。

「海辺のレストランウエディングなんて素敵ですね」

憧れのシチュエーションだ。

お義父さまは私と郁人さんに早く結婚式を挙げるべきだと急かしてくるけれど、私たちは嘘の結婚式をするつもりはなかった。

離婚期限の半年まであと三カ月くらいだし、それくらいならなんとかお義父さまをかわせるだろう。ほかの人を巻き込みたくはなかった。

「なにを考えているんだ?」

しばらく黙って外を眺めていると、郁人さんに問いかけられた。

「郁人さんとはしないけど、離婚後、私は誰かと結婚式を挙げるのかなって。そのときは、私も海が見えるところがいいな……」

口にすると、胸がきゅうっと締めつけられた。

ほかの誰かなんて考えられない。

私はいつまでも、あの日笑顔を向けてくれた彼を求めている。

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