まもなく離縁予定ですが、冷徹御曹司の跡継ぎを授かりました
 正直今まで出会った男性の中で一番かっこいいし、やはり何度見ても整った美しい顔立ちをしている。悔しいけれど見惚れてしまう。

 これから毎日のようにこの人の寝顔を隣で見るのかと思うと緊張して眠れるだろうかと心配になる。

 あの不愛想で強引で失礼な性格がなければ私はきっと――。

「君はここで寝ていいから」

 ぼーっとひとりの世界に入り込んでいたら、いつの間にか寝室で布団を畳んで抱えている彼と目が合う。

「母も弟も向こうの母家にいるからこちらに来ることはない。家政婦たちにもなるべく放っておくように言ってあるからここは好きに使うといい」

「え」
「俺は隣の部屋を使う」

 ぽつんと取り残されたひとつの布団を見つめ現実に引き戻される。妄想を広げていた自分が急に恥ずかしくなり一瞬でも可能性を浮かべたのが負けたような気になった。

 〝契約〟というふた文字が脳裏に浮かび、所詮私は他人なんだとあっさりすれ違っていく彼に思い知らされる。

 最初から分かっていた。

 むしろ私はこんなところに来たくはなかったんだ。自分にそう言い聞かせながら、きっちりと引かれた見えない線を感じてなぜだか少しだけ寂しさを感じていた。

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