まもなく離縁予定ですが、冷徹御曹司の跡継ぎを授かりました
「まあ、お布団を持ってどちらへ?」
襖を開けた音がした瞬間、聞こえてきた女性の声に驚いて振り向く。誰もいないと思っていた障子の向こうには正座をして微笑んでいるお義母さんがいて、思わずふたりでぎょっと固まった。
「新婚初夜から別々の部屋で過ごすおつもりかしら」
顔は笑っているけれど瞳の奥は真っ暗でどこか見透かしたような表情をしている。聞かれていた、とそう思ったときには遅くて私たちの結婚を疑っているのは明らかだった。
「珍しいですね。わざわざこちらまで何のご用です」
「いえね、東京へ行ったきりで離れはしばらく使っていなかったでしょう。でも家政婦たちには部屋のものに触るなと言ったみたいだし、せめてお布団だけでもと思って用意させましたのよ。でもあまりお気に召さなかったみたいね」
布団を落としため息混じりに睨みつける一哉さんに、うふふ、と口元に手を添えて不敵な笑みを浮かべるお義母さん。
初めて会った時からずっと感じていた違和感をまたもや覚え、どこかおかしい親子の会話に引っ掛かる。ふたりの間にはいつも火花が散っていた。
「栞里さんとの結婚を蹴ってまでどうしても結婚したい相手だというからさぞ好いているのかと思えば、お式を終えた途端別々の部屋でなんてまるで偽装夫婦のようですわねえ」
さーっと血の気がひいていく。
いつからそこに座っていたのだろうか。どこまで聞かれていたのだろうか。薄い障子一枚隔てた向こう側なんて会話は筒抜けだったに違いない。全く気配は感じなかったけれど周りも気にせず他人行儀な会話はここでは迂闊だった。
襖を開けた音がした瞬間、聞こえてきた女性の声に驚いて振り向く。誰もいないと思っていた障子の向こうには正座をして微笑んでいるお義母さんがいて、思わずふたりでぎょっと固まった。
「新婚初夜から別々の部屋で過ごすおつもりかしら」
顔は笑っているけれど瞳の奥は真っ暗でどこか見透かしたような表情をしている。聞かれていた、とそう思ったときには遅くて私たちの結婚を疑っているのは明らかだった。
「珍しいですね。わざわざこちらまで何のご用です」
「いえね、東京へ行ったきりで離れはしばらく使っていなかったでしょう。でも家政婦たちには部屋のものに触るなと言ったみたいだし、せめてお布団だけでもと思って用意させましたのよ。でもあまりお気に召さなかったみたいね」
布団を落としため息混じりに睨みつける一哉さんに、うふふ、と口元に手を添えて不敵な笑みを浮かべるお義母さん。
初めて会った時からずっと感じていた違和感をまたもや覚え、どこかおかしい親子の会話に引っ掛かる。ふたりの間にはいつも火花が散っていた。
「栞里さんとの結婚を蹴ってまでどうしても結婚したい相手だというからさぞ好いているのかと思えば、お式を終えた途端別々の部屋でなんてまるで偽装夫婦のようですわねえ」
さーっと血の気がひいていく。
いつからそこに座っていたのだろうか。どこまで聞かれていたのだろうか。薄い障子一枚隔てた向こう側なんて会話は筒抜けだったに違いない。全く気配は感じなかったけれど周りも気にせず他人行儀な会話はここでは迂闊だった。