まもなく離縁予定ですが、冷徹御曹司の跡継ぎを授かりました
「ゆっくりって何してればいいんだろう」

 昨日は外も暗くなり始めていて気づかなかったけれど、部屋の外は綺麗な庭園になっていた。

 手入れが行き届いた大きな松の木に囲まれ、天気のいい今日は緑が明るい。私は縁側に足を投げ出ししばらくぼぅっとその景色を見ていた。

「失礼いたします」

 そこへどこからか若い女性の声がした。

「あ、はい」

 慌てて正座をすると、母屋から通じている戸がゆっくりと開けられた。開けっ放しの襖の脇に現れた小柄な女性は静かに正座し深く頭を下げる。

「若奥様、ご朝食の準備が整いましたのでお持ちしてよろしいでしょうか」
「若……奥様」

 おそらく彼女が一哉さんの言っていた家政婦さんなのだろう。

 それにしても可愛らしい声で若奥様なんて呼ばれたものだからむず痒くて、耳なじみのないワードに聞き返してしまった。

「えっと、若旦那様の奥様ですからそのように。……なにか私いけないことを」
「いえいえ! 大丈夫です」

 実家にもお手伝いさんはいて食事から掃除に洗濯まで何から何まで頼ってきた。

 だから慣れていると言われればそうなのだけれど、小さい頃から親同然に慕ってきて長年仕えてくれていた人たちに頼るのとはわけが違う。

 同年代の女性にも頭を下げられ、実家にいた頃よりどこか距離を感じた。

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