まもなく離縁予定ですが、冷徹御曹司の跡継ぎを授かりました
「なんだ?」
その時なぜか浮かんだのは一哉さんと交わした初めてキス。
「いや、その昨日の夜なんですけど」
顔を火照らしながら恥ずかしくて目も合わせられない。お義母さんを信用させるためのカモフラージュだろうと頭ではわかっていたけれど彼の口からどうしても聞いてみたくなった。
「ああ、悪かったな」
「え」
「寝室を別にするのはなかなかリスクがある。あの人が来たのは想定外だったが誰かに見られる可能性も視野に入れておくべきだった、甘かったよ」
私が聞きたかったのはそういうことじゃない。呆然と立ち尽くす私は「行ってくる」と言って出かけていく一哉さんの後ろ姿を見送りながら、拍子抜けの返答に膝から崩れ落ちた。
「そうだった、私は契約妻だもんね」
誰もいない部屋で呟きながら、色恋なんて微塵もない本来の関係を思い出し正気に戻る。
一〇〇周年の記念式典が終われば私たちの別れは決まっている。それまでに周りに疑われず夫婦生活を送るという目的以外私には何も求められていない。昨夜の出来事もなんでなんて理由はなく、彼にとってはただの手段でしかなかったんだ。
契約書にサインした時から分かってはいたはずなのに無性に虚しさを感じてしまう。小さくため息をつき襖に頭を預ける私は風がそよぐ音に耳を傾けていた。
その時なぜか浮かんだのは一哉さんと交わした初めてキス。
「いや、その昨日の夜なんですけど」
顔を火照らしながら恥ずかしくて目も合わせられない。お義母さんを信用させるためのカモフラージュだろうと頭ではわかっていたけれど彼の口からどうしても聞いてみたくなった。
「ああ、悪かったな」
「え」
「寝室を別にするのはなかなかリスクがある。あの人が来たのは想定外だったが誰かに見られる可能性も視野に入れておくべきだった、甘かったよ」
私が聞きたかったのはそういうことじゃない。呆然と立ち尽くす私は「行ってくる」と言って出かけていく一哉さんの後ろ姿を見送りながら、拍子抜けの返答に膝から崩れ落ちた。
「そうだった、私は契約妻だもんね」
誰もいない部屋で呟きながら、色恋なんて微塵もない本来の関係を思い出し正気に戻る。
一〇〇周年の記念式典が終われば私たちの別れは決まっている。それまでに周りに疑われず夫婦生活を送るという目的以外私には何も求められていない。昨夜の出来事もなんでなんて理由はなく、彼にとってはただの手段でしかなかったんだ。
契約書にサインした時から分かってはいたはずなのに無性に虚しさを感じてしまう。小さくため息をつき襖に頭を預ける私は風がそよぐ音に耳を傾けていた。