まもなく離縁予定ですが、冷徹御曹司の跡継ぎを授かりました
「分かった、すぐに向かう」

 部屋に戻ったら、一哉さんがは何やら神妙な面持ちで電話をしていた。オフモードだったはずがいつの間にかスーツに着替えていて、私はその後ろで立ち尽くしじっと見つめる。

「お出かけですか?」
「会社でトラブルがあった」

 私は整えた髪に指を通し少し残念に思う。せっかく少しはマシになった姿を見てもらおうと整えたのに、見る間もなくそばを通り過ぎていく。

 胸がきゅっと小さくなりながら「いってらっしゃい」と平静を装って彼の背中を見送った。


 部屋にはすでにふたり分の朝食が用意されていて、急に虚しい気持ちになる。

 食事もせずに行ってしまい倒れやしないか。最後にしっかり休んだのはいつか。しばらくそんな心配もできていなかったけれど、見えない彼と向かい合って箸をとりながら改めてぼんやりと思う。

 でも踏み込みすぎるのは契約外ではないかと思う自分もいて、いつも言葉にできずに躊躇してきた。

 私は家族のために結婚しただけで、彼との関係はそれ以上でもそれ以下でもない。


 月島リゾートが事業提携をしてくれたおかげで、きもの鷹宮の業績はうなぎ上りになっている。

 三か月前、月島リゾートがきもの鷹宮と提携したニュースは大きな話題をよんだ。

 オープンしたばかりの月島園にも和装用の着物を提供すると決まってからは某有名結婚情報誌に一面で掲載され、若い世代からも注目されるようになったことでテレビの取材も一気に入るようになった。


 
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