まもなく離縁予定ですが、冷徹御曹司の跡継ぎを授かりました
 一哉さんは今、京都にいる。

 思いつきで立ち上がり久しぶりにあの鍵を開けた。私たちを繋げている一枚の紙切れが入った引き出し。

「あと二ヶ月」

 今や懐かしさすら覚える契約書にはもうすぐ迎えてしまう満了の日を示している。

 ついに来月に迫った一〇〇周年記念式典を無事終えれば私はもう用済みで一哉さんとは赤の他人になる。最初は乗り気でもなく半ば意地で始めたことだったのに、いつの間にかこの生活が当たり前で少し寂しさすら覚えるようになっていた。

 肌身離さずつけているネックレスに手を当てため息が出た。

 これをつけてからだんだんと一緒にいる時間が減った気がする。元に戻ったようにすれ違いの生活ばかりで、式場オープンに向けてほとんど京都に行ったきり帰ってはこない。

 彼の言動ひとつにドキドキして彼の行動ひとつで一喜一憂した。

 でもそれ以上に会えない時間がより彼を考えるようになっていて、この気持ちをはっきりさせる。私はいつの間にかこんなにも一哉さんを想うようになっていた。

 このまま契約を終えてしまうのならあと少しの間でも一緒にいたい。無性に会いたいと思った。

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