俺はずっと片想いを続けるだけ*2nd
こいつに言う必要のないことを、どうして聞いていない、と文句を付けるのか。
それとも、そんな権利をこいつは持っているのか。


俺は留学中もグレイスについて報告を受けている。
あのお別れ合宿まで、こいつの名前はそこには
記されていなかった。
専門家は、俺から金だけ受け取って、事実を報告しなかったのか?

本当はグレイスは学園を辞めたくなかった?
本当は俺と婚約なんてしたくなかった?
本当は俺と…俺と結婚なんてしたくなかった?
本当はこいつと?


足元から『今』が崩れて行く気がした。
グレイスが決定的な言葉を言う前に。
ドノヴァンが俺からグレイスをさらっていく前に。
神様、今すぐに俺を連れていってください。


「グレイス嬢とふたりにしていただけますか?」

勝ち誇ったようにドノヴァンが言った。
俺はゆるゆるとグレイスを見た。

俺は君を愛している。
俺を愛するつもりはない、と言った君を。
それでいい、と俺は答えたんだ。
10年間続けた片想いを君の側で続けられるなら。
こんな幸せはないと。


だけど、君が本当に望んでいるものがあるのなら。
俺は、君の手を離すよ。


「間違えないでくださいね。
 私はグレイス嬢では有りません。
 我が侯爵家の家名でお呼びいただけないのなら
せめてグレイス夫人とお呼びになってください」

俯いていた俺の耳にグレイスの声が聞こえた。


「私は旦那様と結婚したのです。
 旦那様以外の男性と、ふたりきりで話すことはありません。
 神様の前で旦那様に誓ったのです」

グレイスのこれ程冷たい物言いを、俺は初めて聞いた。
背中を丸めてしまった俺とは正反対に、グレイスは背筋を真っ直ぐ伸ばして、毅然とした態度を
悪魔に見せた。
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