色褪せて、着色して。~悪役令嬢、再生物語~Ⅱ
 すっかりと冷めてしまった紅茶をぼんやりと眺めながら。
「うん…?」
 と首を傾げる。
「妖精族は確かに絶滅寸前にありました。人間による捕獲や自然破壊によって住む場所を奪われ、また、動物たちにより捕食されてきたことで、どんどん減ってしまった歴史があります」
「うん」
「ですが、先代の国王の手厚い介抱によって私達、妖精族は王族に居住地を与えられ、危険な目に合うこともなく、安全に平和に暮らしてきたのです」
「そうなんだ」
「ところがです」
 急に女の子は声を荒らげる。
「増えすぎてしまったんです」
「増えた?」
「ええ、公には絶滅種のままで通っていますけど。ここ10年で妖精は増えるに増え、飽和状態。妖精族は王族に守ってもらっていることへの感謝を示して、王族に仕えることにしているんです。が…」
「どうしたの?」
 ぶるぶると女の子が震えだす。
「今は王族よりも、妖精が多すぎて。9人兄弟の末っ子である私は居場所がなかったんです」
 9人兄弟って多いねえ…と思ったが。
 妖精にとっては、フツーなのだろうかと考える。
「余り者の私は誰もが嫌がるテイリー様に仕えるハメになってしまったんです」
「…それは、大変だったろうね」
 震える女の子を目の前に。
 気の毒に思えてきた。
 あのテイリーの性格のことだ。
 目の前にいる彼女がどんな目に遭ってきたのか、うっすらと想像がつくような気がする。
「毎日、人のことを虫扱いしてきてハエ叩きで叩こうとしたり、水鉄砲で攻撃してきたり、宿題代わりにやっとけって目の前にプリント山積みにしたり…魔法の実験台にされたり、それはもう…」
 顔を真っ赤にして憤慨している女の子に。
 やっぱり、テイリーはテイリーだなと納得する。
 こんなに可愛い子なのに。
「私はこのままテイリー様に仕えることを想像したら、命の危険を感じたんです。だから、アリア様は私にとって救世主です」
「…救世主?」
 がばっと勢いよく女の子は立ち上がると頭を下げてきた。
「どうか、アリア様の側で仕えることをお許しください。料理や家事全般は出来るつもりです」
「…ねえ、私がテイリーと仲が良いってことは、私もテイリーみたいに貴女(あなた)に意地悪するかもしれないんだよ?」
 簡単に頭を下げる彼女の行動に理解が出来ない。
 あえて、キツく言うと彼女は顔を上げた。
「アリア様が私に意地悪するわけありません」
「…なんでよ」
「妖精の勘です!」
< 6 / 64 >

この作品をシェア

pagetop