泡沫の恋
出店で食べ物や飲み物を調達すると、花火会場とは逆方向に向かった。
川沿いを少し歩いた先に神社がある。そこの石段の上部は花火が良く見える穴場スポットだった。
「よかったね!いい場所があって。でもよくこんな場所知ってたね?」
「中学の時からちょこちょこきてたから」
「なるほど。それでか」
神社にはポツリポツリと人の姿が見えるものの、先ほどとは比べ物にならないぐらい静かだ。
すると、突然隣からぐぅぅっという重低音が響いた。
「やだっ!」
春野がお腹を手でおさえて「聞こえた?」と恨めし気に俺を見上げる。
「なにが?」
あえて知らない振りをすると、春野は何事もなかったかのようにへへへっと笑った。
「腹減ったし食べるか」
取り出した焼きそばのパックを春野に手渡すと、膝の上に乗せて幸せそうに食べ始める。
「美味しい~!やっぱ屋台の焼きそばは最高だね」
「だな」
平静を装って答えたものの、お好み焼きが思うように喉を通って行かない。
あと十分ほどで花火が夜空を彩るだろう。
今日、俺は春野に告白すると決めていた。
ここで断られたら帰り道どんな顔をすればいいのか分からない。
だけど、どうしても今日自分の気持ちを春野に伝えたかった。
「春野、お好み焼きも食べない?」
むしろ全部食べてもらっても構わない。
時間が近付くにつれて緊張感が高まる。今まで誰かに告白したことは一度もない。
自信なんてなかった。それでも、伝えたい。
春野への溢れんばかりの想いを……。
「いいの?じゃあ、半分っこにしよ?私の焼きそばもあげるから」
春野は屈託のない笑顔を浮かべる。
目を細めて顔をくしゃくしゃにして笑う春野が好きだ。
ちょうど食べ終えたタイミングだった。
空を破るように一発の花火が夜空を飾った。
腹にまで響くドンッと弾けた花火の音と同時に周りから歓声があがる。
巨大な花火が炸裂した。手を伸ばせば届きそうなほどの近さだった。
色とりどりの花火が夜空に咲く。
「……綺麗……」
横に目をやると、春野が瞳を大きく開けて空を見つめていた。
目の前の花火よりもずっと春野の横顔のほうが綺麗だった。
目を逸らすことができない。
春野が花火に夢中になっているのをいいことに俺は春野の横顔を眺めた。
「ねぇ、九条……」
しばらくして何かを言いかけた春野が俺の方へ顔を向けた。
目が合うと、俺の緊張が春野にも伝わったのか息をのんだのが分かった。
「春野、聞いて」
春野は少し潤んだ目で俺を見つめる。
目が合っていた時間はきっとほんのわずかなはずなのに、ずいぶん長い時間に感じられた。
「……春野が好きだ。俺と付き合ってほしい」
真っすぐ目を見て想いを伝えた瞬間、今までで一番大きな花火が夜空を彩り春野の顔が黄色く光った。
そのとき春野が泣いているのに気が付いた。
どうして春野が泣いているのか分からずに狼狽える。泣くほど俺の告白が嫌だったのか。
「……春野?」
すると、春野はか細い声で言った。
「私も好き。ていうか、大好き」
それを聞いた瞬間、一気に感情が昂った。
俺が春野を好きなように、春野も俺のことが好き……?
そんな単純なことを理解するまでに時間がかかって頭の中で繰り返す。
「マジで?」
「マジだよ。好きじゃなかったら一緒に花火大会なんてこない」
俺が春野に抱いているこの感情を春野も俺に抱いてくれているなんて。
そのことが嬉しくて幸せで、この瞬間死んでもいいとすら思った。
これ以上の感動なんて、これから先一生味わえない。
今俺は世界中で誰よりも幸せだと胸を張って言える自信がある。
春野の目から頬に伝う涙を俺は指で拭った。
「九条……、私今……すっごい幸せなんだけど」
笑い泣きの春野。俺はたまらず春野の背中に腕を回してギュッと抱きしめた。
春野の体は想像していたよりもずっと華奢で俺の腕の中にすっぽりと収まってしまった。
すると、春野は恐る恐る俺の背中に腕を回した。
「え。ちょっと待って。俺もヤバいんだけど」
春野の涙につられてか突如物凄い感情が込み上げてきて目頭が熱くなる。
それでも、寸前のところでグッと堪えた。
「嘘でしょ~!?九条も泣くの?」
耳元で春野が叫ぶ。
「いや、泣いてないから」
「声が泣きそうじゃん!」
抱きしめ合いながらケラケラと楽しそうに笑う春野につられて俺も笑う。
「春野のこと、絶対大切にするから。俺と付き合ってよかったって思ってもらえるように頑張る」
「私も九条のこと大切にする」
腕を緩めると、俺は春野を真っすぐ見つめた。
もう花火どころではない。膝の上の春野の手に自分の手のひらを乗せて上からギュッと握って指を絡ませる。
吸い寄せられるように互いの唇が近付いていく。
春野のやわらかい唇の感触でようやく春野が自分の彼女になったのだと実感することができた。
―ー春野を絶対に幸せにする。俺はこの日確かに心に誓った。
川沿いを少し歩いた先に神社がある。そこの石段の上部は花火が良く見える穴場スポットだった。
「よかったね!いい場所があって。でもよくこんな場所知ってたね?」
「中学の時からちょこちょこきてたから」
「なるほど。それでか」
神社にはポツリポツリと人の姿が見えるものの、先ほどとは比べ物にならないぐらい静かだ。
すると、突然隣からぐぅぅっという重低音が響いた。
「やだっ!」
春野がお腹を手でおさえて「聞こえた?」と恨めし気に俺を見上げる。
「なにが?」
あえて知らない振りをすると、春野は何事もなかったかのようにへへへっと笑った。
「腹減ったし食べるか」
取り出した焼きそばのパックを春野に手渡すと、膝の上に乗せて幸せそうに食べ始める。
「美味しい~!やっぱ屋台の焼きそばは最高だね」
「だな」
平静を装って答えたものの、お好み焼きが思うように喉を通って行かない。
あと十分ほどで花火が夜空を彩るだろう。
今日、俺は春野に告白すると決めていた。
ここで断られたら帰り道どんな顔をすればいいのか分からない。
だけど、どうしても今日自分の気持ちを春野に伝えたかった。
「春野、お好み焼きも食べない?」
むしろ全部食べてもらっても構わない。
時間が近付くにつれて緊張感が高まる。今まで誰かに告白したことは一度もない。
自信なんてなかった。それでも、伝えたい。
春野への溢れんばかりの想いを……。
「いいの?じゃあ、半分っこにしよ?私の焼きそばもあげるから」
春野は屈託のない笑顔を浮かべる。
目を細めて顔をくしゃくしゃにして笑う春野が好きだ。
ちょうど食べ終えたタイミングだった。
空を破るように一発の花火が夜空を飾った。
腹にまで響くドンッと弾けた花火の音と同時に周りから歓声があがる。
巨大な花火が炸裂した。手を伸ばせば届きそうなほどの近さだった。
色とりどりの花火が夜空に咲く。
「……綺麗……」
横に目をやると、春野が瞳を大きく開けて空を見つめていた。
目の前の花火よりもずっと春野の横顔のほうが綺麗だった。
目を逸らすことができない。
春野が花火に夢中になっているのをいいことに俺は春野の横顔を眺めた。
「ねぇ、九条……」
しばらくして何かを言いかけた春野が俺の方へ顔を向けた。
目が合うと、俺の緊張が春野にも伝わったのか息をのんだのが分かった。
「春野、聞いて」
春野は少し潤んだ目で俺を見つめる。
目が合っていた時間はきっとほんのわずかなはずなのに、ずいぶん長い時間に感じられた。
「……春野が好きだ。俺と付き合ってほしい」
真っすぐ目を見て想いを伝えた瞬間、今までで一番大きな花火が夜空を彩り春野の顔が黄色く光った。
そのとき春野が泣いているのに気が付いた。
どうして春野が泣いているのか分からずに狼狽える。泣くほど俺の告白が嫌だったのか。
「……春野?」
すると、春野はか細い声で言った。
「私も好き。ていうか、大好き」
それを聞いた瞬間、一気に感情が昂った。
俺が春野を好きなように、春野も俺のことが好き……?
そんな単純なことを理解するまでに時間がかかって頭の中で繰り返す。
「マジで?」
「マジだよ。好きじゃなかったら一緒に花火大会なんてこない」
俺が春野に抱いているこの感情を春野も俺に抱いてくれているなんて。
そのことが嬉しくて幸せで、この瞬間死んでもいいとすら思った。
これ以上の感動なんて、これから先一生味わえない。
今俺は世界中で誰よりも幸せだと胸を張って言える自信がある。
春野の目から頬に伝う涙を俺は指で拭った。
「九条……、私今……すっごい幸せなんだけど」
笑い泣きの春野。俺はたまらず春野の背中に腕を回してギュッと抱きしめた。
春野の体は想像していたよりもずっと華奢で俺の腕の中にすっぽりと収まってしまった。
すると、春野は恐る恐る俺の背中に腕を回した。
「え。ちょっと待って。俺もヤバいんだけど」
春野の涙につられてか突如物凄い感情が込み上げてきて目頭が熱くなる。
それでも、寸前のところでグッと堪えた。
「嘘でしょ~!?九条も泣くの?」
耳元で春野が叫ぶ。
「いや、泣いてないから」
「声が泣きそうじゃん!」
抱きしめ合いながらケラケラと楽しそうに笑う春野につられて俺も笑う。
「春野のこと、絶対大切にするから。俺と付き合ってよかったって思ってもらえるように頑張る」
「私も九条のこと大切にする」
腕を緩めると、俺は春野を真っすぐ見つめた。
もう花火どころではない。膝の上の春野の手に自分の手のひらを乗せて上からギュッと握って指を絡ませる。
吸い寄せられるように互いの唇が近付いていく。
春野のやわらかい唇の感触でようやく春野が自分の彼女になったのだと実感することができた。
―ー春野を絶対に幸せにする。俺はこの日確かに心に誓った。