泡沫の恋

春野愛依side

春野愛依

あれから月日は経ち、卒業式の日を迎えた。

無事に第一志望の大学に合格を果たした私は卒業と同時に東京で一人暮らしをすることになっている。

卒業証書授与で壇上に上がる賢人の姿をパイプ椅子に座る私は温かい目で見送る。

賢人と別れてからの私はその悲しみや寂しさを吹っ切るように勉強した。

受験までまだ時間はあったけど、それでもやれることは勉強だけでわき目も降らずに没頭した。

というわけにもいかず、たまに息抜きと称して三花や他の友達と遊んだりもした。

夏休みには勉強合宿と称して三花の家に二泊三日で泊まり、その翌週には同じ名目で三泊泊まってもらった。

花火大会や地元の祭りは予備校の模試と日程がかぶっていけなかったけど、夏休み最終日にはプールに行って翌日の始業式では全身真っ赤で制服が擦れるたびにヒリヒリと痛んで地獄を見た。

賢人とは別れた後も、たまに連絡を取り合っている。

どっちかが浮気をしたとかそういうことじゃなかったから、今の私達は友達という関係に落ち着いている。

あれから隣のクラスの男子に告られたり予備校の他校の生徒に連絡先を聞かれたり……ちょっとした恋の予感もあったけど私は首を縦には振らなかった。

もちろんモテる賢人も女子から言い寄られているところを何度か目撃した。

そのたびにモヤモヤしたりヤキモチを妬きそうになったけど、そういうものだと割り切ると気持ちが楽になった。

クリスマスと年越しはさすがに賢人のことを思い出して辛くなったけど、私の気持ちはぶれなかった。

今も賢人は定期的に連絡をしてくる。

別れる前、あんなに遅かったメッセージの返信が今は早くなったし、用がなくたって送ってくる。

だけど、私は振り返らない。もうあの日には戻らない。
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