泡沫の恋

九条賢人side

九条賢人

「春野愛依!」

「――はいっ!」

体育館に響き渡る愛依の声に俺の胸は熱くなる。

壇上で卒業証書を渡されて深々と頭を下げる愛依の背中を見つめていると胸が苦しくなって寂しさが込み上げてくる。

県大会準決勝まで勝ち上がったときの大会で運よく大学関係者の目にとまった俺はスポーツ推薦で大学進学を果たすこととなった。

母も妹の亜子も涙を流して祝福してくれたけど心の中にポッカリと空いてしまった穴はいつまで経っても埋まってくれない。

別れてからも愛依と連絡を取り合った。

正確にいえば、俺から何度も愛依に電話をかけたりメッセージを送ったりした。

そもそも愛依が俺と別れたいと思ったのは寂しい思いをさせていたからで、互いの進学が決まり何も障壁のなくなった今ならやり直せるような気がしていた。

だから、俺は愛依へ想いを伝える。またあの日に戻れるように。
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