初恋の沼に沈んだ元婚約者が私に会う為に浮上してきました

俺は浮上出来る (元婚約者視点)

「ノーマンさん、これは御礼だ」

酒場のテーブルの向かい席に座った男は自分の
グラスを持ち上げてそう言うと、俺のグラスに
合わせた。

御礼……そう言う男を俺は見覚えがなかった。


明日の午前中なら会えると、シャルから連絡が
来た。
だから今日は飲むのはやめようと、思っていた
のに。

歩いていたら、急に肩を叩かれた。


「今日、王都に着いたところでー
 早速ノーマンさんに会えるとはついてる」

男は俺の顔を見ながら早口に言う。
本当に誰なのか記憶になかったが、男は俺の名前を呼ぶし、以前俺が住んでた街からやって来た、とも言った。

あの街には1年程しか居なかったが、こいつに
御礼をされるような事を、俺はしたのか?


とりあえずと、男は俺を酒場へ連れ込んだ。
一番きつい酒を大きなグラスで注文し、料理の皿もどんどん運ばせる。

訳がわからなかったが、金のなかった俺には
ただ酒や無料の食い物はありがたい。


名前を教えろと言っても男はニヤニヤ笑っていて
『思い出すまで飲みましょうよー』なんて
言うから、
『明日は早く起きないといけないから』と、
答えた。


「へぇ、明日は何のご予定でー?」

こいつに言っても仕方ないが。


「昔の女に会うんだ」

つい笑みが溢れてしまう。
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