初恋の沼に沈んだ元婚約者が私に会う為に浮上してきました
「嬉しそうですねー
 じゃあ、ますます飲まなきゃ、御祝いの酒だ」

まだ1杯目のグラスが空いていないのに、注文
しようと男は女給に合図した。


「もう十分だ、それで御礼って何だ?」

「2年以上前になるけどー、
俺がしなきゃいけなかった仕事を、ノーマンさんが代わりに片付けてくれてー」

あの街でこいつの仕事を俺が代わりにした?
ますます覚えがなかった。


王都から逃げ出した俺が流れ着いたあの街でしていた仕事は、女性向けの隠れ家的なブティックの店員だ。

俺には紹介状もなかったが、女性オーナーは俺の顔を見て直ぐに雇ってくれた。
仕事の内容は難しくなかった。
女性客の機嫌を取り、高価なドレスを買わせる
仕事。
その店で俺はサービスすることを学んだ。

あのオーナーは手広く色々な商売に手を出して
いたから、そこでこいつの仕事を手伝ったのか?


考えても思い浮かばなかったので、もういいかと思い出すのは諦めた。


あの街には1年足らずしか、いなかった。
恐れていた追手はかからず、大丈夫だろうと
ふんで、王都に戻ることにしたのだ。
俺を巡って女達がうるさくなってきていたので、潮時だった。
ややこしい関係は真っ平だった。

辞めると告げずに街を出たので、もしかして男はあのオーナーの関係者で俺を探しに来たのかと、思い付いた。
だが関係なければ、薮蛇だと聞くのはやめた。
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