初恋の沼に沈んだ元婚約者が私に会う為に浮上してきました
機嫌良く俺に夕食を振る舞おうとする男に、少しは愛想を言う方がいいかと、思った。


「俺にずっと惚れてた女がこっちに戻ってきてて
 昨夜会ったんだ」

「おっ、再会して早速言い寄られた?」

「馬鹿な事、言うな
 そこら辺の軽い女じゃない、ちゃんとした
 貴族の女だ」

少し声を潜めて言った。
秘密めいた言い方は酒の席では受ける。


「へぇ、貴族の女? あんた平民なのにー、
 どうやって知り合った?」

男が美味そうに焼かれたベーコンの皿を、俺に
回してきた。


「俺はこう見えても元は貴族だからな
 女と俺は幼馴染みで、婚約してたのさ」

聞いた男は大喜びで、俺に手を合わせてきた。


「へぇ、嘘だろ!
 まるっきり芝居の話みてぇじゃねえー?」

へぇ、と言うのが男の口癖のようだ。


「嘘なもんかよ、ちっちゃなガキの頃から 
『ノーマン様、ノーマン様』って
 うざったいくらいに纏わり付かれていたんだ」

男が手にしていた串がボキリと折れたので
驚いた。


「どうしたんだよ、びっくりさせんな」

「悪い悪い、羨まし過ぎて力が入っちまったー」

(こいつ、王国の人間じゃないのか?)
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