初恋の沼に沈んだ元婚約者が私に会う為に浮上してきました
おじさんという言葉と目の前の男性の姿は、
そぐわないように思われました。

(エドガー様はおじさんなんかじゃないわ)

私も自己紹介させていただこうと、改めて席を
立とうとすると殿下に押し留められました。


「自己紹介はしなくて構わない
 君のことはちゃんと調べているから
 クリスティンの、あの女の被害者だからね」


殿下の言葉は私を動揺させるのに充分でした。
私が留学した理由を、殿下はご存知なのです。

殿下は私の側に椅子を移動させると、身を寄せられて、耳元で囁かれました。


「帝国の情報網を舐めていたら困るよ
 あらゆる国の、あらゆる情報が、帝国には
 集まってくるんだから」

笑うのをこらえると、いった口調でしたが、そのトーンは冷酷さも含んでおられるようでした。

私をからかっていらっしゃるのか。
それとも脅していらっしゃるのか。


エドガー様は顔色の失った私を見て、心配気な
ご様子でした。

(どうやったら、帰してもらえるの?)

私の耳元で、ますます楽しげに殿下は続けられました。


「帰るのは許さないよ
 だけど君が俺の欲しい情報を話してくれるなら
 それが終わったら帰っていいよ」

「し、失礼ながら……
 殿下がお求めの情報を私ごときが持っている
 とは、思えません……」

動悸が激しくなり、声が震えて。
それだけ言うのがやっとでした。


私は何かの罠にかけられたのでしょうか?
キャルが私に優しく接してくれたのは、この為
だったのでしょうか?


「難しい話じゃないよ
 クリスティンの話を聞くだけさ
 ……ただそれを知る人間は少ない方がいい
 だからここには使用人も立ち入り禁止にした
 さて、今から3人だけのお茶会を始めようか」
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