レンカレ

初デート

アラタを見てマサは一言、
「顔で選んだろ?」と言った。

「チカちゃん、こんにちは。
今日はまた素敵だね。」

爽やかに挨拶する青年を怪訝そうな顔でマサが上から下まで舐める様に見ているので
チカは慌ててアラタと窓際の席に着いた。

「連日のご指名ありがとうございます。

先にお金もらっていいかな?」

チカはそうだったとため息をつく。
そしてミカコがキチンと封筒に入れてくれたレンタル料をアラタに渡した。

「ありがとうございます。
あのさ、次からはキャッシュレスで決済してくれていいから。
現金払いだとちょっとしらけるでしょ?

えっと…今日は5時間コースでいいのかな?」

「え?ご、5時間?」

「そう聞いてるけど違った?」

「いや、予約は勝手にミカコがしたから。
だから勘違いしないで。
別に逢いたくて鷺坂君をレンタルしたワケじゃ無いから。」

「あのさ、鷺坂くんてやめてくれない?
おれ、一応リョウって源氏名あるからさ。」

「源氏名って…」

「じゃあ分かってるとは思うけど、一応、決まりなので言います。
手繋ぎはOK、それ以上のボディタッチはNGです。」

「はいはい、わかってます。
もうそれ以上触りません!」

チカは昨日のことを思い出して恥ずかしくなる。
記憶はないが目の前の男は昨日自分の全てを見たに違いなかった。

そこへマサが偵察にやってきた。

「チカ、注文決まった?」

チカと呼び捨てにするその男の顔をアラタが見上げる。

「あ、チカの友達のここのオーナーのマサです。
よろしく。」

手を出すので軽く握手をすると向こうからギュッと痛いほど握り締められた。

「チカ泣かせないでね。」

そう笑顔で言ってマサはチカを見る。

「あ、キリマンジャロで…鷺…いや、リョウくんは何にする?」

「オレもチカちゃんと同じので。」

「喜こんで〜。」

マサが作り笑顔でカウンターに戻っていくとチカはホッとしたように一息ついた。

「あの人、チカちゃんに気があるんじゃない?
めっちゃ煽られた。」

「マサは友達。ってゆーかお兄ちゃんみたいな人。
昨日一緒にいたミカコの彼氏だった人。

すごくいい人でミカコとうまく行って欲しかったけど何故か別れちゃったんだ。

でもその後も友達としてずっと繋がってる。
理由はお互い話してくれないんだけど、別れてもあれだけ仲良いのに何があったんだろうって思っちゃう。」

「まぁ色々あるんでしょ。
男と女っていうのはさ。
本人たちにしか分からない事情がきっとあったんでしょ。」

思わぬアラタの言葉にチカは少しビックリした。

「君は若いのに案外経験豊富なんだね。」

「いや、仕事柄色んな話を聞くだけで、オレはそんな恋愛経験無いよ。興味もない。
ただ恋愛なんて余裕のあるやつがするんだなって思うだけ。」

チカはアラタの中にいつも暗い影みたいなものを感じる。
それが何かは聞く気はないけど、聞いたところで話してもくれないだろう。

だってアラタはただのレンカレなのだ。
チカはただお金で買ったこの時間を楽しむことにした。

「チカちゃん、いつもとちょっと雰囲気違うね。
会社だとそういうのは着ないよね?」

チカは急に胸の空いたワンピースを着てることが恥ずかしくなって後悔する。

「あ、これ…ミカコの服なんだ。
やっぱちょっと派手だった?」

アラタの視線が胸元に落ちる。

「いや、そういうのもいいんじゃないかな?
でも…昨日のチカちゃんの胸、ちょっと思い出しちゃうかな。」

「は?」

「え、いや、これはリップサービスって言うか…ほらオレ金もらって彼氏演じてるワケだし…褒め言葉っていうか…」

「どこが?今のセクハラだよ!
レンカレならさ、気持ちよくデートさせなきゃ。
仕事なんだからさ。」

アラタはちょっとカチンと来たが、お金を貰ってる立場で言い返すこともできないし
チカのいうことも正論だと思う。

「わかりました。ちゃんと仕事します。」

マサがコーヒーを運んできて
二人のただならぬ雰囲気を素早く読み取った。

「え?ケンカ中なの?」

チカは笑顔でマサに向こうに行ってと言わんばかりに目配せするとマサは早々とコーヒーを置いて残念そうに下がって行った。

「そうだよな。仕事だからちゃんとする。
どこに行きたい?
ちゃんと楽しませるから。」

急にアラタがスイッチが入った様に仕事の顔になってチカもそれに甘えることにした。

これはお金で成立するデートなのだ。

高いお金を払ってるのに喧嘩で時間を使うなんて勿体無い。

だから割り切って今はアラタではなくリョウと楽しもうと思った。

「上野でさ、パンダ見たい。」

「うん、もちろん良いよ。チカちゃん、パンダ好きなの?」

「うん。何か辛いことあってもパンダ見ると元気出るんだ。」

「あ、どうりで…会社でもパンダグッズ多いよね。」

「え?気付いてた?」

チカはアラタが会社での自分のことを少しでも気にかけてくれたことがなぜか嬉しかった。

「うん。オレも好きだよ。パンダ、可愛いよね。」

でもパンダを好きだと言ったアラタの目はとても寂しそうでチカはそれ以上何も聞かなかった。

とりあえず動物園に行く前に近くの老舗洋食レストランでランチをすることにした。

「私ね、このパンダのランチ!」

「え?何、これ可愛いね。
てか、チカちゃん、ここ結構高いけど良いの?」

「うん。どうせなら美味しいもの食べようよ。
ここのはどれもすごく美味しいからさ。
どれでも好きなの頼んで。」

お金で成立してるデートとは言え、チカだってアラタにもこのデートを楽しんで欲しかった。

美味しいものを食べると人は幸せになると思ってチカは大好きなレストランであるここに連れてきた。

もちろん薄給のチカだってそんなに頻繁には来られない場所だがシュンスケとたまにここで2人でランチをして動物園でパンダを見た幸せな時間をふと思い出す。

「久しぶりだなぁ。動物園なんて。
子供の時以来!」

「そうなの?私は家から近いからここはしょっちゅう遊びに来る。
シュンスケ…」

そこまで言いかけてチカは黙ってしまう。

シュンスケとの思い出が多すぎてつい名前が出てしまう。

チカの胸が少し痛んで悲しくなった。

すると急にアラタが手を繋いで来た。

「チカちゃんの思い出塗り替えてあげる。」

「え?」

「行こう!ほら早くパンダ並ばないと!」

パンダを見る列の間、アラタはチカの手を離さなかった。

周りの女の子がアラタを見ていることにチカは気がついた。

チカもアラタのカッコよさは認めている。

最初に派遣で入るって会社でアラタを紹介された時、きっとチカも彼女たちと同じ顔でアラタを見ていただろうと思った。

「君さ、モテるでしょ?」

「うん?そうでもないよ。
今は仕事だからこんなだけど
オレさ、普段暗いしあんまり愛想良くないでしょ?
だから女の子もあんまり寄ってこない。」

チカは社内でのアラタのことを考えていた。

たしかにアラタは近寄り難い雰囲気があるけどそれは高嶺の花的なイメージだった。

カッコいいから絶対彼女とかいるんだろうなぁと勝手に思っているところがある。

「別に暗くて冷たいとかじゃないと思うよ。
カッコよすぎるんじゃない?」

「え?何それ、照れるんだけど…
でもさ、チカちゃんもそうだと思うけど、みんなある程度の年齢になってから付き合うと大抵は結婚とか考えるでしょ?

だから顔だけで選んだりしないコのが多いと思うよ。

確かに高校生の頃とかは今よりはモテたけど
ある程度大人になるとさ、オレみたいに派遣で働く男とか不安定だなとか思うんじゃない?」

チカは派遣の待遇を詳しくは知らないがボーナスもないし、いつ切られてるかもわからない不安定さは確かに結婚相手の条件としては不利になることもあるかも知れないと思った。

「正社員で働くとか考えなかったの?」

「正社員とかになると副業とかほぼアウトでしょ?責任とか重くなるしオレは残業とかも出来ないからさ。
暫くはこのスタイルでいいかなぁって。」

「そんなにこの仕事って儲かるの?」

「いや、この仕事は少し前にスカウトされて始めたばっかりだし、まだそんなに指名ポンポン入らないからそれほどじゃ…
だから他にも土日とかは工事現場でバイトしてるし、他にも時間が許す時は色々やってる。
今日は雨だから工事現場無くなってどうしようかなと思ったら指名入ってここに来たわけ。」

チカはなぜアラタがこんなにも効率悪く働くのか理解出来なかった。

「そんなにお金欲しいならホストとかやったらもっと儲かるんじゃない?
それだけの容姿あるんだから人気出ると思う。」

「ホストってそんなに甘くないでしょ?
儲かる分それなりにリスクもあるしね。

オレは危ない橋は渡れないし…
それに実はお酒そんなに得意じゃないんだ。
しかも夜遅くまでだし、身体持たないよ。

この仕事なら、お酒飲まなくてもね。」

そういえば自分たちもお酒で昨日過ちを犯しているんだと思った。

「じゃあ昨日みたいなのはダメなんじゃ?」

「あー、たしかにいつもならお酒は断ってた。

でもさ、昨日はチカちゃんだったからちょっと安心しちゃったんだ。

知らない人じゃないし、チカちゃんの素性も人柄もなんとなくわかってるしね。

まさか部屋にまで泊まっちゃうとか思わなかったけど…。」

チカは今日の朝のことを思い出してまた恥ずかしくなった。

顔が赤くなるのが自分でもわかったほどだ。

「あのさ…ホントに私たち…その…」

「ヤッたかってこと?」

チカが頷いてアラタは笑って答えた。

「本当に覚えてないんだね。
自分からキスしたのも?
自分から裸になったのも?」

チカがまた頷いてすごく気まずい顔をしているのを見てアラタはそんなチカをますます揶揄いたくなった。

「そこまでされてヤラないで帰る男っている?」

チカはやっぱりかーと慌てて繋いでいない方の手で恥ずかしそうに顔を覆った。

「あのさ、本当にごめん。
酔っ払ってまさか男の子誘っちゃうなんて…
ホント私もお酒やめた方がいいよね。」

アラタはそんなチカを見て「マジでウケる〜」と笑った。

こんなに笑ったのは久しぶりだった。

まるで本当にデートしてるみたいでチカといると仕事を忘れてしまうくらい楽しかった。

「実はね、ラッキーだったって思ってる。
チカちゃんと知り合えて良かったなって。」

急に真面目な顔でアラタがそんなことを言うからチカは胸が高鳴ってそんな自分に戸惑ってしまった。
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