高校生だけど、美術の先生を好きになりました。

 好きになったきっかけはありきたりで単純なものだ。
 教室の窓からベランダに出て、晴れた空をのんびり眺めていたら、高校生にもなってガキかよと思うくらい教室で駆け回って遊んでいた男子に激突されて、私はベランダから落ちた。「あ、死ぬかも。だけど二階だし平気かなぁ」と思いながら落下した私を、たまたま下にいた尾賀先生がお姫様抱っこでキャッチしてくれたのだ。
 二階ではあったが、下はコンクリートだった。打ちどころが悪かったら死んでいたかもしれないと気付いて震えが止まらなくなった。
 その時に尾賀先生は、「大丈夫?」となんてことないように言って、お姫様抱っこのまま保健室に運んでくれたのだ。
 私は先生の油絵の具の匂いがきつい白衣にしがみついて震えた。先生はそんな私を保健室のベッドに下ろしてからも、「保健の先生いないから探してくるよ」とごく普通なことを言って私から離れようとした。私は冷静になれず、自分の死についてなんて深く考えたこともなかった私は、死と隣り合わせになった恐怖に耐えきれず、「側にいてください」とメイクがぐちゃぐちゃになるのも気にしないで号泣してしまった。
 先生は、これまた絵の具でちょっと汚れたハンカチを取り出し、「大丈夫だよ」と涙を拭いてくれた。普段だったらそんなことをする男なんてキモイとか子供扱いするなよと思うのに、その時はそんな先生の行動が嬉しかったのだ。
 ああ、この人は私の特別な人だ、と思った。
 
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