訳あり精霊と秘密の約束を~世話焼き聖獣も忘れずに~

9 友達

 久しぶりに太陽が雲間から顔を出した朝、朗報もやって来た。
 食事を終えて学校へ向かっていた海音の元に、惶牙が木々の隙間から飛びついてきた。
「え、十日くらい戻れないって言ってなかった?」
「大急ぎで片付けてきたんだ。残りは白夜の野郎におしつけた」
「そんなことしていいの?」
 地面に引き倒して頬をぺろぺろと舐めてくる惶牙に、海音は呆れながらもほっとする。
(よかった。怪我はしてないみたい)
 金色にまだら模様のある立派な毛皮はどこにも傷がついていなかった。喜色満面の表情にも疲れはなく、元気いっぱいだ。
「おかえり、惶牙」
 ぎゅっと首に腕を回して抱きしめる。すると惶牙は目じりを下げて情けないような顔になった。
「ああ、これだよ。これがマナトのいる生活だ」
 しみじみと言って惶牙は海音の頬に顔を寄せる。
「食事はどうしてた? よく眠れたか? 天気が悪くて退屈してたろ。あ、森の端っこだったんで土産がないんだ、悪い。シヴの奴はちゃんとお前の面倒見ただろうな? 適当なものばかり食わせてたらただじゃおかねぇ」
 放っておけばいつまででも話し続けられそうな気がして、海音は惶牙を一度強く抱きしめると体を離す。
「話したいことは後でいっぱい聞くよ。まずは学校に行ってくるね」
「ん? そんな時間か。気をつけてな」
 海音は背を向けて歩き出す。惶牙はいつものように、隠れながら関所に海音が入るまで見守ってくれた。
 学校でも子どもたちの話題といえば、嵐のことばかりだった。
「屋根が吹き飛びそうになって、親父が」
「うちの夕食豆ばっかりだったの。母さんったらそれしか買ってなかったみたいで」
 数日間の嵐で家に閉じ込められていたからか、あちこちでおしゃべりをして笑っている。
(みんな元気そうだ。シヴ様が嵐を調節したからかな。よかった)
 まだ言葉がよくわからないから会話には入っていけなくて、海音は雰囲気だけ楽しんでいた。
「なあ、お前」
 突然肩を叩かれて、海音は振り返る。
「僕?」
「そうだよ。お前んちはどうだった?」
 そこにはこげ茶の髪と瞳を持つ、海音より三つほど年上の少年が立っていた。少し吊りあがった目はきつい印象もあるが、言葉の調子はとても気さくだ。
「僕の家……じゃない、けど、大丈夫」
「そっか。そりゃよかったな。お前どこに住んでるんだ?」
「えと。キタクの」
 海音はシルヴェストルが滞在していることになっている家の場所を言う。
「ご主人さま、と、お兄さん、みたいな人と、一緒。とてもいい人。学校に来る、二人の、おかげ」
 海音は微笑んで、澄んだ蒼い瞳を細めた。
「話した人、君、初めて。ありがとう。うれしい」
 無邪気な微笑みを見せた海音に、少年は一瞬喉を詰らせる。
「話しかけていいか迷ってた。お前……ちょっと変わってるから」
「かわってる?」
 ニュアンスがよくわからなくて、海音は首を傾げた。細かい言葉の意味はまだ理解できない。
「なんて言うか、黒髪が珍しいってだけじゃなくて、いつもきっちりしてて……どこかいいところの出なんだろうなって」
「いいところの出?」
「貴族ってことだよ」
 海音はきょとんと首を傾げて、次の瞬間には朗らかに笑う。
「僕、海の近くの、村の子。名前、海音。ウミ、オトって意味」
 海音が指先で空に字を書くと、少年はびっくりしたように目を見開く。
「えっ? 名前に漢字を持ってるのか?」
「うん。宵月の子、みんな、漢字」
「漢字って古い時代に精霊が使ってたものらしいぞ。精霊が聖獣に名付けるものなんだって。今はもう清華家の直系にしか漢字の名前はなくて、響きだけ残ってるだけなんだ」
「そうなんだ。知らな、かった」
 海音が感心してうなずくと、彼は続ける。
「俺はアキラ。清華の一族なんだ」
「よろしく」
 海音はにこにこして手を差し出す。大陸では手を握ることで友好を示すということを習ったばかりだった。
 アキラは海音の白い手に一瞬戸惑ったようだったが、すぐに握手を交わした。海音は嬉しくなってその手を数回振った。
 先生が教壇にやってきたので、海音は自分の席に戻った。
 その日の授業はいつもより頭にすんなりと入っていった。初めて学校の子どもと話せて、心が浮き立つ。
(同年代の子と話したことなかったけど。こういうのって、いいな)
 それに、シルヴェストルは碧の瞳の青年に引き合わせると言っていた。
(その時のために、しっかり公用語が話せるようにしとかなきゃ)
 決意を胸に、海音は熱心に先生の言葉に耳を傾けていた。
「宵月ってどんな国なんだ? 公国とどう違う?」
 昼食時、いつもは学校がふるまってくれる弁当を一人で取る海音だったが、今日はアキラと一緒だった。
「空、深い海みたい。肉、少し。魚食べる。学校、ない」
 海音は思いつく限りでアキラの質問に答えた。
「みんな、黒髪で。背、低い。鼻、小さい。全然違う」
「じゃ、同じところは?」
「んー……」
 海音は顎に手を当てて思案すると、ぱっと笑って言う。
「精霊様、お供え。精霊様、大切」
「なるほど。そっか、宵月もか」
 アキラは納得いったようにうなずいて吊り目を細める。
「今回の嵐も皆祈ってた。大きな被害を出さないでくださいってな。もちろん俺も、ほら」
 アキラは手首に巻かれた碧玉のブレスレットを見せる。
「おそろい。僕も」
 シルヴェストルにもらったブレスレットを海音も見せて、二人は笑い合った。
 その日から海音はアキラと話をするようになって、他の子とも少しずつ話をするようになった。
「アキラは本当に親切なんです。僕がまだうまく言葉を話せないから、ゆっくり何度も言い直してくれて」
 夕食の場で、アキラを話題にすることも多くなった。
「わからないことだらけの僕に付き合って、いろいろ教えてくれますし」
「気をつけろよ、海音」
 海音の脇で寝そべっている惶牙は、軽く鼻を鳴らして言う。
「お前は綺麗なメ……人間だから、黙っててもオスが寄ってくるんだ。オスなんて下心のある奴ばっかだぞ」
「そんなことはないよ。アキラは僕のこと男の子だと思ってるはずだし」
 海音は笑って、木の器からスープを飲み干す。
「いいか、海音。お前は自分のことを知らないが」
「惶牙」
 顔を寄せて言葉を重ねようとした惶牙に、横からたしなめるような声がかかる。
「いいことだ。友達ができたのは」
 シルヴェストルは碧の瞳で海音を見据えたまま、短く言う。
「学校でも学びやすくなったろう」
「はい。一人で勉強するよりずっと楽しくなりました」
「ならいい」
 精霊はそれ以上何も言わなかったが、海音は少し彼の期待に応えることができた気がして嬉しかった。
(しっかり勉強するようにって仰ったんだから。頑張らなきゃ)
 不満げな目でみつめる惶牙には気づかず、海音は心に誓っていた。





 学校が少し早く終わった、ある日の午後のことだった。
「海音。お前んち行ってもいい?」
 いつものように帰り支度をしていた海音の元に、アキラがやって来て言った。
「家、そんなに遠くないんだろ?」
「え……と」
 海音は返答に困って考えた。
 マナトであることは隠しておいた方がいいと惶牙に言われている。箱庭に案内するのも、聖獣の白夜でさえ中に入れるのをシルヴェストルが渋っていたのを思い出す。
「仕事の邪魔とかしないからさ。なっ、いいだろ」
 アキラは楽しそうに訊いてくる。海音も学校で、子どもたちが毎日のように互いの家に遊びに行っているのは知っていた。
(気にかけてもらえるのは嬉しいけど……う、うん。こうなったら)
「……案内、する」
 これ以上迷っていると変に思われる。海音はためらいがちに尋ねた。
「ご主人、留守。兄さんも、たぶん。いい?」
「仕事行ってるなら当然だよ」
 アキラは気楽にうなずいて了解してくれた。
「ご主人、何の仕事してるんだ?」
「普段、旅、してる。後は、物売ったり、とか」
「行商人か。南方の人?」
「ううん。公国生まれ、みたい」
 海音は少し緊張した足取りで学校を出て、町を歩きだす。
(初めて行くけど、大丈夫かな)
 海音が案内しようとしているのは箱庭ではない。
 シルヴェストルが滞在していることになっている家がある。誰かに家を訊ねられたらそこを案内するようにシルヴェストルに教えられていたが、海音はまだ一度も家の前を通ったことすらなかった。
「町外れなんだな」
「うん。ご主人さま、うるさいの、嫌い」
 シルヴェストルの様子を思い出して海音が言うと、アキラは辺りを見回しながらうなずいた。
 家々が立ち並ぶ区域から離れ、城壁のすれすれにぽつんと立っている一軒屋があった。庭には家畜が放し飼いにされ、鶏の羽音が時々聞こえるだけの静かな場所だった。
(無人……じゃないみたい。どうしよう、僕のこと知らないよね)
「ちょっと、ここ、待ってて。訊いて、くる」
 海音は慌てて木戸をくぐって庭に入ると、家の門を叩こうと手を上げて……そのまま海音は硬直する。
(え?)
 よく見るとこの家は海音の故郷の建物に似ていた。石灰でできてはいるが張り出した屋根に、縁側がある。
「あの……?」
 その縁側で仰向けになって眠っている女性がいた。
 海音の気配に気づいたのか、その女性はぱちりと目を開けて起き上がる。
「おや、いらっしゃい」
 彼女は近くにあった眼鏡を取ってかけると、のんびりと立ち上がった。
「君が海音ですね」
 それは流暢な宵月の言葉で、海音は思わず故郷の言葉で問い返す。
「え……知っていらっしゃるんですか?」
「黒髪に青い目の六歳くらいの子。グロリアがそう言ってましたから」
 彼女は銀髪に灰色の瞳をしていて、老成していて、年齢がよくわからないいでたちだった。
 ただ人が持つにしては淡白すぎる色彩は、ここへ海音を連れてきた少女を思い出させた。
「グロリアさんのお姉さんですか?」
「嬉しいことを言ってくれますね。ところで何かご用ですか?」
 庭先にアキラを待たせていることを思い出して、海音は急いで切り出す。
「あ、あの、突然ですけど。シルヴェストル様をご存知ですか?」
「公国の精霊様ですね。君が新しいマナトになったとか」
「よかった。それで、僕はここに住んでいることにするようシルヴェストル様に言われたんです」
 彼女はすぐに事情を察したようで、微笑んで頷く。
「お友達を中に入れてあげなさい。私はあなたの下宿主のように振舞いますから。適当に合わせてください」
「助かります。えと」
 海音が問う前に、彼女は頷いて言った。
「私はセネカ。ようこそ、海音。お待ちしておりましたよ」
 彼女の慈しむような眼差しはやはりグロリアとゼノンに似ていると、海音は思った。





 家の中に通して家主に引き合わせたら、アキラは目を輝かせて言った。
「セネカさんの家じゃないか」
「え。知って、る?」
「もちろん。初めまして、俺アキラっていいます」
 セネカは屈みこむと、柔和に目を細めた。
「清華の子ですね。海音がいつもお世話になっております。どうぞゆっくりしていってください」
 セネカは下宿主の顔でアキラにあいさつをすると、奥に二人を通す。
「どこでも座ってください」
 中は海音の故郷のようにイ草で編んだ畳が敷いてあった。
「今日焼き上げたばかりのお菓子です。お茶うけに」
 しかもセネカが差し出したのは緑茶と、米をすりつぶして魚醤で味付けした焼き菓子だった。
(セネカさん、名前は大陸の響きだけど、暮らしの感じは宵月だ)
「これ何だ?」
「えと、センベイ。宵月の、お菓子」
 海音は懐かしい故郷のお菓子を指さしてアキラに答える。故郷にはもう戻れないが、それでもやはり懐かしい。
 セネカは縁側に座ってさりげなく話題を振る。
「海音は学校でどうですか? この子、学校のことをあまり話さないんですよ」
「勉強熱心ですよ、海音は。最初は全然言葉もわからなかったのに、今では言ってること大体わかってるみたいで。そうだよな?」
「あ、えっと。まだ、わからない、いっぱい」
「謙遜してますけど、本当よくやってます。海音より頑張ってるやついないんじゃないかな」
 セネカは目を細めてうなずく。
「それは安心です。海音はまだここに来たばかりなので、友達ができると心強いですから」
 セネカはお茶をすすりながらのんびりと言った。
 海音はいつばれるかとひやひやしていたが、セネカはむしろ海音が言葉に詰まっているのを見て楽しんでいる節さえあった。
「セネカさんが家主ってことは、海音はセネカさんの弟子なんですか?」
「え?」
 興奮した様子で言ったアキラの言葉に奇妙な単語があった気がして、海音は聞き返す。
「弟子?」
「セネカさんは先代の傭兵隊長だろ」
 海音はきょとんとして、横で湯のみに口につけた女性を見る。
「……傭兵。え、女性のですか?」
「公国では、農作業の合間に傭兵をする女性なんてざらですよ」
 温厚そうな顔立ちに微笑みを浮かべているセネカは、ぱっと見では編み物を好みそうな雰囲気で、戦士の気迫とはかけ離れている。
「何だ、海音。知らなかったのか?」
 こくりと素直にうなずくと、アキラは目を輝かせながらセネカをみつめる。
「俺は将来商人になろうと思ってるんですけど、護身術を覚えておきたくて。それで、その……」
 言葉に詰まったアキラをちらりと見て、セネカは眼鏡の奥の瞳を細める。
「見せてください」
「え、いいんですか?」
「後継を育てるのも年寄りの務めですから」
 そう言うセネカは老年には見えなかったが、彼女はにこやかに言った。
 セネカは部屋の棚から無造作に出してきた短剣を、アキラに手渡す。
「これ本物ですけど、いいんですか?」
「はい。どこからでもどうぞ」
 セネカは丸腰で五歩離れたところに立った。
「やっ!」
 アキラは間合いを詰めると、短剣を横になぎ払う。どうやら剣を持ったことがあるようで、その一閃はブレがなかった。
 しかしすり抜けたように、剣は空を切った。アキラは怪訝な顔をして、海音も少し眉を寄せる。
(今、セネカさん動いた?)
 続いてアキラが上から短剣を振り下ろしたが、それも当たらない。
 アキラは飛びかかるようにセネカに切りかかっていく。しかし何度やっても、セネカの服にすら掠らない。
 アキラの額に汗が滲んでいた。動きにも鈍りが見え始める。
 アキラが下から突くようにセネカに刃を向けた時だった。
 初めてセネカが動いたのがわかった。彼女は一歩踏み出して、アキラの手首を掴んだ。
「この辺で終わりにしましょう」
 セネカはあっけなくアキラの手から短剣を奪って言った。
「どうですか、アキラ」
「どうって……」
「剣を振るうのは、あなたにはまだ早すぎると思います」
 セネカは冷徹なほどはっきりと言う。
「今のあなたは剣の重さについていけていない。賊に遭ったなら、迷わず逃げることをお勧めします」
「そんな……」
「私はまずは、そう教えることにしています。武術が頼りになるのはほんの一握りの場合だけ。襲われた時に大事なのは相手を打ち負かすことでなく、命を盗られないことですから」
 アキラは不満げに顔を歪めたが、武術で名高い者に言われると反対はできないようだった。
「そう、ですね。はい。わかりました」
 元々素直な気質でもあったのだろう。アキラは迷いながらもうなずいた。
 セネカは歩み寄ってアキラの肩を安心させるように叩くと、ふと海音を振り向いた。
「海音もやってみますか?」
 海音は少し考えて言った。
「僕、剣は、持ったことがなくて」
「じゃあ木の棒くらいにしときましょう」
 セネカは家畜を追い立てるために柵に立てかけてあった棒を海音に差し出す。一瞬迷って、海音はそれを構えた。
 海音はじりじりと間合いを取って、ずいぶん動かなかった。セネカの一挙一動をみつめたまま考えをめぐらせる。
(隙がない。打ってもやられる)
「こちらからいきましょうか?」
 セネカの言葉に海音はうなずいた。
 手刀が海音の手首を狙って振り下ろされる。おそらく手加減しているのだろう。それを避けるのは容易かった。
 次の手刀が来る前に海音は横に跳ぶ。身を屈めてセネカの足を払う。セネカはそれを飛び越すと、海音の棒を踏みつけようと足を伸ばす。
「はっ!」
 海音は武器を捨てて、セネカの顔の高さまで飛んだ。
 首を狙って蹴りを繰り出す。セネカは身を屈めてそれを避けると、踏みつけた棒を拾い上げた。
「……嘘ですね。君は、武器に慣れている」
 セネカは笑みを消して、棒を振りかざそうとした。
「何をしている!」
 瞬間、木の棒があっけなく折れた。
 それに驚いている海音を、軽く担ぎあげる腕がある。
「海音を傷つけるか!」
 海音が瞬きもしないうちに、セネカが吹き飛ばされていた。突風が吹いたように体が反転して、しかしさすが武人らしく手をついて耐える。
 セネカはそのまま頭を下げて言った。
「申し訳ありません。お許しください」
 海音を抱き上げていたのはシルヴェストルだった。セネカが膝をついて深く礼をとったのを見ても、その顔に浮かぶ怒りは消えない。
「シヴ様。セネカさんは稽古をつけてくださって」
「なぜ稽古など必要なのだ」
 海音が慌てて弁解すると、シルヴェストルは眉をきつくひそめる。
「お前は子どもなのだ。武術など必要ない」
「で、でも……あ」
 困った海音だったが、ふとこちらを凝視しているもう一つの目に気づく。
 アキラが目を見開いて縁側からシルヴェストルを見ていた。海音はシルヴェストルの腕から抜け出して地面に降りると、急いで説明をしようと試みる。
「ご主人さま。仕事、帰った、みたい」
「今、どこから来た?」
「えと、裏口、かな?」
「あ、そっか。気づかなかった」
 アキラは稽古を凝視していたらしく、その辺りはごまかすことができた。
 シルヴェストルはアキラに目を移すと、つかつかと彼に歩み寄る。
 アキラは緊張した様子で、かといって視線を外すこともなく立っていた。
 シルヴェストルはアキラを見下ろすと、ほんの少しだけ口元を緩める。
 人に姿を変えた精霊は親の口調で言った。
「海音と仲良くしてやってくれ、アキラ」
「あ、はい」
 シルヴェストルの言葉の調子は相変わらず尊大ではあったが、アキラは照れくさそうにうなずいた。
「あ、そろそろ日没なので。俺、帰ります」
「気をつけてな」
「ありがとうございます」
 アキラはシルヴェストルに一礼してから出て行った。
「戻るぞ、海音。お前も帰る時間だ」
 夕焼けが空を染めていく。故郷よりは少し淡い、けれど鮮やかな緑だった。
 自然と海音の手を取るシルヴェストルに、海音は目を伏せて微笑んでいた。
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