待てない柑士にひよりあり ~年上御曹司は大人げなくも独占欲が止められない~
自分の決断は間違ってなかったんだ、と思っていると、他の人が急にざわつき始めた。
何かと思って顔をあげてみてぎょっとする。
柑士さんがこちらに向かって歩いて来ていたのだ。
「あ、柑士兄さん」
椎野さんが言うやいなや、柑士さんに、ぐい、と引っ張られ、肩を抱かれる。
「ひゃっ……!」
驚いて固まる私を気にもせず、柑士さんは私の肩を抱いたままで、それを見た椎野さんは息を吐く。
「こんなところで大胆すぎる。これだからアメリカ帰りは」
「やっと日本に戻ってこれたんだ。これくらい当然だ」
「なんだ、やっぱりアメリカにいた時もずっとラブラブだったのね」
壮一の顔色が曇ったのが分かった。
全力で否定したいけど、今の状況ではおかしな話だ。
「終業時間に迎えに来る。一緒に食事して帰るぞ」
柑士さんはそれだけ言うと、経理課をあとにした。
その背中を見送りながら、椎野さんは言う。
「あんな甘い顔した柑士兄さん始めて。よっぽど密石さんのこと好きなのねぇ」
柑士さんは私の肩を抱いたままだったので、彼の表情はほとんど見れなかった。
(あの柑士さんが甘い顔? そんなことないと思うけど……)
私はそう言われても、なんだかぴんと来ず、壮一の表情ばかり気にしていた。