初恋を拗らせたワンコ彼氏が執着してきます
『……え?』

『俺、年上の女によく言い寄られるんだ。おねえさん真面目そうな見かけだけど、好きってこと? まあ、一晩付き合ってもいいけど。ホテルにでも行く?』
 美少年が冷めた笑みを湛えながら、蔑むようにこちらを見ている。その様子に唯花の中で何かプチンと切れた音がした。

『……付き合ってもらおうじゃないの』
『は?』
『これから、健全な大人として爛れた不良少年に説教してやる……その後お家に帰してあげるから――逃げんなよ』

 後に透が言うにはこの時の唯花の目は完全に据わっていたという。
 飲み会帰りだったのに自分史上最速ダッシュをキメてしまったので、アルコールが回って気が大きくなっていたのだ。

 単純に失礼なこの不良少年に腹が立ったのもあるが、今思うと周りの反応を気にせず好き勝手できている“不真面目な”彼のことが羨ましくて妬ましかったのかもしれない――自分には絶対にできないことだったから。

 その後、ファミレスに連れこむと透は意外にも素直に家の事情を話し始めた。
 父親が浮気を繰り返すようなクズ男で、長年母親は泣いて暮らしていたらしい。
 透が高校に入学した時やっと離婚することができた。
 透はもちろん母について行ったのだが、その母がすぐに別の男の子を妊娠し、結婚すると言い出した。
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