初恋を拗らせたワンコ彼氏が執着してきます
 相変わらず金曜の夜になると透が唯花の家を訪れる生活は変わっていなかった。
 しかし、今日は遅くなりそうだからと無理してこないように彼に連絡をしておいた方がいいかもしれない。

(そう言っても来ちゃいそうだけどなぁ)
 透の人懐こい笑顔を思い浮かべる。彼の出向終了まで後一カ月足らず。一緒に過ごせる時間もあとわずかなのかもと思うと胸がツキンとする。

 その痛みを振り切るように島津に声を掛ける。

「金曜の夜なのにごめんね。彼女と約束あったんじゃない? 23歳だっけ。鼻の下30センチくらい伸ばして自慢してたあのかわいい子」
 彼女の写真をスマートフォンで見せられたことがある。すると島津の表情は途端に凍り付いたようになる。

「え、島津くん? どした?」
「――振られた……同窓会で再会した同い年の男と付き合うからって」
「マジですか……」

 唯花は図らずして島津の地雷を踏んでしまったようだ。

「最初は俺のこと『大人で包容力があって素敵』とか言ってくれてたのに、悲しいもんだ。あっさり心変わりされてさ。大人だって失恋したら辛いのにな……ハハ」

(うっ……胸が痛い)
 島津の乾いた笑い声につい唯花も自分の胸を手で押さえた。
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