狂った雷
「あなたと結婚する日が楽しみです。あなたの白無垢姿、すごく綺麗なんでしょうね」

「あなたと僕の子どもは、きっと誰よりも可愛いですよね」

酷い男性だったらどうしようと不安になっていた杏は、男性の優しい言葉にその不安や緊張は解れていき、少しずつ気持ちが彼に向き始めていた。そんな矢先、彼の浮気現場を目撃したのだ。

「顔が全然似ていないから、お姉さんや妹さんではなさそう。仮にそうだとしてもあの距離は……」

分析をすればするほど、杏の中に虚しさが込み上げてくる。つまり、自分はずっと騙されていたという訳だ。彼がその女性に向けている笑みは、杏に向けられる笑みよりももっと優しく、その目には熱が篭っている。

「ハハッ……」

杏の口から乾いた笑い声が漏れる。刹那、頰を涙が伝った。胸がどうしようもなく苦しく、杏はその場からすぐに走って立ち去る。走る間も涙は止まらずに溢れていった。

あの笑みも、あの言葉たちも、差し伸べてくれた手も、全て嘘だった。それがショックで、杏が生きてきたまだ十五年という人生で一番辛い出来事とランクされる。
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