狂った雷
最後に見た二人は、笑い合いながら喫茶店へと入っていた。彼は扉を開け、まるで西洋の紳士のように女性をエスコートしていた。そのエスコートを杏はされたことがなく、それだけで本命が彼女なのだとわかる。

「これから、どうやって彼の顔を見ればいいの?」

彼に優しさが全て嘘なのだとわかった今、彼と会うことが怖い。だが、結婚のするとなれば何度も両家で会う機会が嫌でもある。そんな時に甘い言葉を言われたら?優しくされたら?普段のように笑えるだろうか?杏の中でぐるぐると気持ちが渦巻いていく。

今は女性の社会的地位は低い時代だ。両親に相談したところで、言われる言葉など想像がつく。

「女のお前にはわからないかもしれないが、男にはそういう相手が必要なんだ。ちょっとの火遊びくらい許してやれ」

「そんな心の狭い女になってしまったら、あの人に嫌われてしまいわよ。せっかくいい家に嫁げるのだから、我慢なさい」

そう言われた時、素直にその言葉を受け止められるのだろうか。無理に決まっている。
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