S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす

 だからって、俺や花詠にはなにも否はないというのに、関わるなというのは納得できるはずがない。

 しかし、暮泉家に行けば手のひらを返したように冷たくあしらわれ、花詠自身も俺を避けるようになって、距離を取る他なくなった。

 きっと彼女も親からきつく忠告されているのだろう。そうわかっていても、避けられるのは多少なりとも傷ついたし、それ以上にもう以前のような関係には戻れないのかという寂しさのほうが大きかった。

 そのまま時は過ぎ、みるみる成長していく彼女を学校で見かけると、無意識に目で追うようになっていた。そのたび、胸におかしな違和感を覚える。

 大人びていく綺麗な顔、伸びたサラサラの髪、制服から覗く白い肌。同学年の男子と話したり、笑い合ったりする姿も。

 目に映すたび胸の奥がちりちりと焼けるように痛み、掻きむしりたくなるくらいに疼く。

 原因不明の症状はそれだけじゃない。高校に入って新しくできた友達が、俺たちの関係をどこからか聞いてきたらしく、こんな話をした時のことだ。


『花詠ちゃんって、悦斗の許嫁だったんだって? なんであんまり仲よくないの?』
『お前、知らねーのかよ。石動家と暮泉家のドロ沼不仲話。結構有名だぞ』
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