S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす

『まじか! あんな可愛い子と結婚できるチャンスが……もったいねー』
『つーか、可愛い幼馴染がいるってだけで羨ましいよな。花詠ちゃん、いい子だしさぁ』


 友達ふたりが花詠の話をしているのを聞くだけで妙に腹立たしくなり、『別にどうでもいいいし』なんてそっけなく言ってごまかしていた。

 このもどかしさやイラ立ちはなんなのか、はっきり悟ったのもこの頃だったと思う。胸がときめく感覚を知り、かと思えば苦しくなったり、こんな複雑な感情になるのは花詠に対してだけだったから、認めざるを得なかった。

 そのうち花詠は旅館の手伝いを始めたらしく、放課後はほとんど姿を見かけなくなった。

 時々学校で会うと、俺が嫌味を言い合いながらも花詠の近況を探っていたことに、彼女は気づいていないだろう。早くも若女将として頑張っている彼女を密かに応援していたことも。

 花詠が高校生になり、女友達とうまくいっていない状況に偶然出くわした時には、迷わず彼女の味方をしていた。あんなに一生懸命働いている人をバカにするようなやつは、単純に許せなくて。

 この時、久しぶりに彼女のために行動した俺はとても気分がよくなった。自己満足ではあるが、やはり俺はこの子を守りたいと思っているのだと気づかされた。
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