S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす

 両親たちの確執に俺たちが巻き込まれるのは、やはりとてもくだらない。許嫁の関係には戻れなくても、普通に仲よくしていけばいいだろう。

 当時、俺は大学二年生。外務省に入るための試験がひと通り終わったら、また距離を縮めていこうと決め、俺はひたすら試験勉強に勤しんだ。

 日本にいる間に、せめて犬猿の仲からは脱却したい。そう考えていたものの、めでたく内定が決まった後、大学の皆とひぐれ屋で忘年会をした時に問題が起こった。

 着物姿で若女将として働く花詠をまともに見たのはこの日が初めてで、俺は柄にもなくドキッとした。

 普段は飾らず自然体でいる彼女が、凛とした空気を纏い、大人びた笑みを浮かべて品よく接客するギャップに、まんまと惹かれてしまった。

 そんな彼女が、ニュースで悪評高いセクハラ社長に絡まれている場面を目撃したら、当然なにもせずにはいられない。考えるより先に足が動いて彼らに近寄った俺は、男の手を掴んで引き剝がしていた。

 花詠はVIPである彼に誠実な対応をできなかったことを反省していて、彼女の父親の暮泉さんは旅館の評判に関わる事案だと、相当頭に来ていたようだ。
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