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「痛み止めを飲むなら、先におにぎりを食べてください」

「腹減ってねぇ」

「減ってなくても、食べてください。っていうか、だったらどうしておにぎり買ったんですか?」

「……夜飯? か、朝飯?」

「はぁ?」

 ふざけているのだろうか、この人は。朝ご飯ならまだしも、夜ご飯をおにぎり1個で済まそうとしていたなんて。
 千真はおにぎりを取り出すとそれを食べやすいように開けて、はい、と駿介の前に差し出した。

 不貞腐れたような顔をしていた駿介だったが、観念したようにため息を吐くと、千真の手の中にあるおにぎりにそのまま食らいつく。瞬間、ギョッとした千真は、駿介から顔を背けた。

「じ、自分で持って食べてくださいっ」

「俺、怪我人」

「それは、知ってますけど!」

 顔を背けたまま、千真はぎゅっと目を瞑る。
 駿介は目の前でふるふると震える手を掴むと、自分のほうに引き寄せ、なおもそのままおにぎりを口に運んだ。

「自分で持ってくださいってば!」

「いいじゃねぇか、別に」

「よくないっ」

 そうやって押し問答を繰り広げている間に、千真の手の中にあったおにぎりはなくなって、あろうことか駿介は、おにぎりのなくなった千真の手の指先を舐めてきやがった。

「――!?」

 ぞわぞわと足の先から、なにかが駆け上ってくる。なにこれ、と混乱に襲われる中、またお腹の奥が締めつけられるような痛みを訴えてくるのを感じていた。
 1本1本、丁寧に指を舐め上げられ、身体の力が抜けてくる。立っていることもできなくなるくらいの虚脱感に襲われた千真は、カクッと膝が抜けて駿介の胸に身体を預けた。

「なんだよ」

「……っ」

 本当にこの男は、信じられない。文句を言いたいのに、そんな気力もないほどに力を抜かれ、縋るように駿介の背中に手を回した千真は、それでも少しばかりの抵抗心を見せ、拳を握った。

「一緒に、寝るか?」

「……!?」

 耳元で、妖しくそう囁かれ。今度こそ、背中を殴ってやった。
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