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4. 小学生男子のあれ

(1)

『今から帰るけど、なにか買って帰るものがある?』

 耳元で、そう囁かれた旭の声が、まだ残っている。何度も何度もそれを思い出し、千真はにやけ顔が止まらなかった。だってこんなの、まるで彼氏の帰りを待っている彼女みたいじゃないか。
 もちろん彼氏は旭で、彼女は千真である。

 やだ、もー。千真が両手で頬を支え、くねくねと感激に浸っていると、不意に視線を感じ、ばっと振り向いた。残念なほど異形なものを見る目をしている駿介と目が合って、有頂天だった気分が、瞬時に地の底まで落ちていく。

「気持ちわりー……」

「え、具合悪いですか?」

「いや、おまえの顔が」

「……」

 一瞬でも駿介を心配した気持ちを返して欲しい。けれどやはり本調子ではないのか、駿介の顔色はひどく青ざめていた。

「本当に、具合悪くないですか?」

「あー。たぶん」

 たぶん? 自分でもよく判っていないような返答に眉根を寄せながら、千真は駿介の行動を見守る。
 駿介は冷蔵庫からペットボトルの水を取り出すと、やはり千真に頼むでもなく口でキャップを開けた。

 駿介が痛み止めを飲んでから、駿介は寝室にこもり、千真はしばらく羨ましいキッチンを眺めたりリビングを徘徊したりして、結局なにもすることがないのでソファで横になっていた。
 そうしてつい先ほど、スマホの着信音にハッとして目を覚ました千真は、テーブルに置かれたままの駿介のスマホをなんの迷いもなく手にして、それが自分のものではなかったことに気づいたのは、旭の、あれ? という声を聞いてからだった。

「旭さん、今から来ますって。すみません、私、間違って着信とってしまって」

「そうか」

 千真が渡したスマホを、駿介は特に怒るでもなく受け取って、そのまま少しだけいじってテーブルの上に放ったのだが、そのときに一瞬だけ触れた駿介の手が、思いのほか熱かった。

「ちょっと、失礼します」

 本当に失礼だと思ったが、千真は両手で駿介の顎辺りを触り、目を大きく見開いた。人間はこんなにも体温が熱くなるものかと思うほど、熱すぎる。

「大狼さん、熱冷ましとかないですか?」

「んなもん、あるわけねーだろ」

 ですよね、と妙に納得する。必要最低限のものしかないこの部屋に、そんなものはないだろうことは聞かなくても想像できた。

「電話お借りしてもいいですか? 旭さんに、買ってきてもらいます」

「好きにしろ」

 言われて、千真は申し訳ないよりも駿介の体調を慮った。迷うことなく駿介に背中を向け、駿介のスマホを手に取ると旭に電話をかける。
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