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 千真は、駿介の首に手を絡めてしがみつく。
 耳元で感じる駿介の熱い吐息に生々しさを感じながら、服に手をかけられたのにハッとしてそれを阻止すれば、安心させるようなキスが降ってきた。

「汚いから、いやです」

「汚くなんかないから、全部見せろ。全部見たい」

「……」

 触れる唇が、優しい。優しすぎて、涙が出てくる。
 千真の抵抗がなくなって、駿介は一瞬悩んだものの、ゆっくりと服を脱がして少しばかり後悔した。千真が、脱ぐのをためらった理由が、判らなかったわけではない。ただ思っていた以上に、それは存在を主張していた。

 少しばかり、表情が険しくなってしまったかもしれない。奥歯を噛み締めれば、不安そうな表情の千真とぶつかって、慌てて唇を寄せる。

「きれいだな」

「嘘ばっかり。でも、夢の中の駿介さんは、優しいですね」

「夢……」

 駿介は、ふ、と唇を綻ばせて、千真を見た。千真がキスをねだるように手を伸ばしてくるのが不思議だったが、なるほど、夢うつつにいるのならそれも判る。

 両腕の傷は、前の日のものだ。けれど腹周りの傷は、随分と新しい。
 少しの隙間も与えないほどに埋め尽くされたそれを、千真が見られたくなかった気持ちも判る。正直に言うと、駿介だって見たくなかった。
 けれどそれは、決して汚いからとかそう言った理由ではなく、怒りが沸点に到達してしまうからだ。今からでも相手の家に行って、殺してやりたい衝動に駆られる。

 触れれば痛いのか、わずかばかり眉間に皺を寄せて、身を捩らせる。
 極力、触らないようにしてやりたいが、なかなか、月明かりの下で見る千真は、傷の有無にかかわらずそそられる。きれいだと呟いたのも、決して世辞ではない。

 千真が駿介を受け入れた喘ぎ声が、室内に響く。
 やっと手に入れたこの瞬間だけれど、なぜだか妙に虚しく感じた。
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