幸せのつかみ方
そして今日。
レストランの前で裕太が立っていた。

先に入ればいいのにと思いつつ、声を掛けた。

「お久しぶり。直幸はまだ?」
「それが・・・」
と言って裕太がした説明しはじめた。

「レストランに来て、受付で名前を告げたら、予約が二名分だっていうんだ。取り合ず千夏か直幸が来たら確認しようと思ったんだけど。千夏は何か聞いてるか?」
「何も聞いてないわよ」

嫌な予感しかしないこの状況。

すぐに直幸のスマホに電話をする。

のんきな声で出た直幸は平然と、
『父さんと母さんにごちそうしたいって言ったよ?』
と宣った。

「そうだけど。お父さんとお母さんは離婚してるのよ?」
『知ってる。でも、二人とも俺の親ってことは変わらないんでしょ?俺は二人に感謝を込めてごちそうしたかったの。
そのレストラン、かなりネットでも評判のいいとこだよ。しっかり味わって。それで、どうだったか教えて。
あ。お支払いは済んでるから。追加ドリンクはそっちで払っちゃってー。それじゃ』
プツッ。
「ああ!直幸!」

「もうっ!」
言いたいことだけ言って切られた電話に向かって怒りを訴える。

「直幸、なんだって?」
隣に立つ裕太が訊ねてくる。
「『お父さんとお母さんに感謝を込めてごちそうしたい』そうよ」
「計画的だな」
裕太も私も呆れてしまう。

「本当に。もう、何考えてるんだか」
「キャンセルするか?」
「もう、会計済んでるらしいわ。それなか今からキャンセルなんてお店に申し訳ないわ」
「そうか。・・・それなら、せっかくだ。食べていくか?」
「ええ」


働き始めたばかりの息子が、一生懸命に働いて稼いできたお給料で私たちにプレゼントしてくれる食事。
見るからに、安くはないと分かるその店構え。
直幸の気持ちを無下にすることなどできるわけがない。

・・・・でも・・・気まずい・・・。


「入るぞ」
「はい」

気まずい空気のまま、二人でレストランに入った。







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