幸せのつかみ方
「あのね。
お金とか寂しいからっていう理由で、結婚したんじゃないんだよ。
この人をずっと好きでいたいとか、一生一緒に生きていきたいとか、そういう気持ちで結婚するの」

「だけど、好きだけじゃ生きていけないでしょ?」
意味が分からないと言うように、眉間に皺を寄せる。

「ええ。結婚は生活だもの。好きだけじゃ生きていけない。
けど、好きがなかったら、一緒には生きていけないの」
「どういう意味?」

「そこに好きっていう気持ちがあるからいろんなことに耐えられるし、乗り越えられるの」

「結婚して何十年も好き好き言ってる人とかいるわけないじゃん」
「そうね。そうかもしれない」

一生好きって言い合えたらよかったのだけれど、今となっては愛情ではなく執着で一緒にいたのかもしれない。

そんなことを思うと、視線はだんだん下になっていった。

「母さん・・・」
直幸の心配そうな声に顔を上げ、にっこりとほほ笑む。

「私は、結婚したことも離婚したことも後悔なんてしない。
一度しかない人生、大事に生きなきゃ。
これからは、人に迷惑かけない範囲で、一人で好きに生きたいって思ってる」

「それはそうだけど・・・母さんはまだ人生の半分しか生きてないんだよ?
残りの人生、このまま一人で生きていくなんて言わないでくれよ。」
「直幸・・・」

「誰か一緒に過ごせる人がいるなら俺だってこんなこと言わないよ。
でも、そんな人、誰もいないんでしょ?
それなら、父さんとの復縁、真剣に考えてみてよ」。


「心配してくれてありがとう。
でも、ごめんね。ありえないわ」


重い空気が二人の間に流れる。


「オマタセイタシマシター」
にこにこしながらやってきた店員さんに張り詰めた空気が切れる。

彼が運んできてくれた2種類のカレーでチョイスしたマトンカレーとグリーンカレー、そして好物のナンを食べ始める。


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