幸せのつかみ方

「まあ、バツっていう言い方は好きじゃないけど、その樹さん?可能性は低いかもね」
景子は残念そうに言った。

「えー。そうかなあ・・・あ。そうだ!」
と紗良はいいことを思いついたと言った。

「その人とイメトレすればいいじゃん」
「は?イメトレ?」
「イメージトレーニングよ」
「そんなことは知ってるわよ。何に対するイメトレよ?」
「恋愛よ。決まってるじゃない」

「え?本気?・・・あははは」
真剣な紗良の突拍子もない提案に笑ってしまった。
「ははははは!樹さん相手に恋愛のイメトレ?あはははは」
お腹を抱えて笑う私に、紗良は少し不機嫌そうに鼻を膨らました。

「それだけ完璧なんでしょ?想像してキュンキュンしてたら、千夏のカチコチに固まった恋愛脳に否定以外の何かが生まれるかもしれないじゃん!」

「はっ。無理やりすぎ。ドラマや小説じゃあるまいし。生まれるわけないじゃん」

「本っ当に千夏は否定的なんだから!」

「いいじゃん。妄想恋人くらいのことしてみたら」
紗良の提案に笑っていたら、景子がその提案に乗るような発言をしてきた。
私は驚いて目を丸くする。

「こっちが勝手に妄想するんだから平気よ。
ストーキングとか樹さんとかいう人の迷惑になるようなことしなければ、大丈夫なんじゃない?」
「でしょ?ほら、景子も賛成してるし、イメトレしてみなよ」
「いやあ、楽しくなってきたわね」
嬉しそうに話す二人は、止まっていたフォークを再び持って食事の続きを始めた。

『これでこの話は一件落着』とでも言いそうなすがすがしい顔とその食べっぷりに私は文句を言いたくなった。

「ちょっと、他人事だと思って何、面白そうにしてるのよ」
「面白いのよ」

「バカ元旦那とより戻す気ないんでしょ?」
「ない!」

「可愛い息子の意見を聞いて、他に気になる人作ってみたらいいんじゃない?」
「そう。恋愛のやり方を忘れてしまった千夏のリハビリには、樹さんくらいハイスペックな人でちょうどいいんじゃない?」
「リハビリ?」
「そ。リハビリ、リハビリ」
「ドラマみたいにかっこいいイケメン見て、キュンってなる感じを思い出したらいいじゃん」
「うー・・・・」

「いやあ、楽しくなってきた」
「キュンってなったら教えてねー」

全く楽しくないと思いながらも、少し温くなったビールを呷る。


種類の違うクラフトビールのお代わりを注文し、飲み比べをしながら女子たちの会話はコロコロと話題が替わり、夜が更けるまで終わることはないのだった。

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