空色綺譚
翌朝。
テーブルの上で寝ていたスライムがカーテンの隙間から差し込む朝陽で目を覚ますと、照羽が着替えをしている最中だった。
いつもの出社より早い時間である。
それをスライムは当然、知らないが照羽は起きたことに気づいて声をかけた。
「今日は早めに出勤する。システムの入れ替えがあるからな」
シャツのボタンを閉めスーツを身につけながら、照羽は云った。
「システム?」
着替えの間、テレビ画面のニュースを見ていたかスライムは、照羽の元へとピョコピョコと近づき首を傾げた。
体内で検索をすると仕事道具の更新のようだ。
「古くなったとか、レベルアップか? 何にしてもいいことだな」
スライムは感心したように云ったが、照羽は口の端に笑みを浮かべた。
「本当にそう思うか?」
そんなまともな理由であれば、まだいい。
納得もできる。
実際はそのシステムメーカーの対応が気に入らなくなったので、他メーカーの機器に乗り換えただけ、というのが真の理由だ。
理由を訊きスライムは飛び上がりながら憤慨する。
「ええっ、なんだよそれ!」
「そんなものさ。ま、おれは従うだけだ」
照羽は腕時計を付けるとカバンを持つと、部屋を出る。
「待てよ、おれも行く!」
スライムは素早くカバンに身を滑り込ませる。
照羽も拒否はせずに会社へと向かって行った。
昨夜は気づかなかったが、照羽の自宅は高層マンションの中階層だった。
(あれ今のヤツ……さっきのテレビに写ってたよな?)
途中、何人かの人間とすれ違ったのだが、どこかで見た人間が多い。
テレビCM、会社紹介番組の社長、ニュースキャスター……。
(いいところに住んでるんだな、照羽)
それなりの身分がある人間で、それに見合った収入のある人間たちが住んでいる。
セキュリティも万全だ。
スライムはカバンの隙間から外を眺め、照羽が無理をしていないか心配になった。
確かに身綺麗にはしているが普通のサラリーマンにしか見えず、そこまで裕福とも思えないのだが……。