愛のバランス
麻里絵は、今朝の出来事を何度も頭の中で再生していた。
『今日は会議だから、先に出るね』
二人で朝食をとりながら何気ない会話を交わし、笑い合った。
その後、玄関まで見送ってくれた倫也とキスをした。
いつもと何も変わらない朝だった。
ありふれた、けれど確かな愛に満ちた朝。
麻里絵の胸には、初めて味わったあの日よりもさらに深い、凍てつくような絶望が居座っていた。
ただの失恋ではない。
結婚し、生活を共にしていた夫が、何の前触れもなく、離婚届を置いて消えたのだ。
訳がわからない。
どうしてこんなことに――
麻里絵には全く見当がつかなかった。
現実感がなく、涙すら出ない。
昨夜、確かに倫也と抱き合った。
いつもと変わらず優しく丁寧に愛され、この上ない幸福感に満たされた。
抱きしめられ、「愛してる」と囁かれたその言葉は、今も耳に残っている。
あれは嘘だったのだろうか。
朝はいつも通りスーツを着ていたが、倫也は今日仕事に行ったのだろうか。
麻里絵は徐に立ち上がって寝室へ行き、クローゼットを開けた。
スーツやシャツ、ネクタイピン――どれも、いつも通りに並んでいる。倫也の私物がゴッソリ消えている、ということはなく、少しホッとした。
希望なのか、恐怖なのか、自分でもわからない感情を抱えながら、リビングに戻ってバッグを探った。
スマホを取り出し、震える指で連絡先をタップする。
映画やドラマなら、こういう場面では必ず『現在使われておりません』というアナウンスが流れるものだ。けれど、当たり前のように呼び出し音が鳴り、二回のコールであっさりと繋がった。
『今日は会議だから、先に出るね』
二人で朝食をとりながら何気ない会話を交わし、笑い合った。
その後、玄関まで見送ってくれた倫也とキスをした。
いつもと何も変わらない朝だった。
ありふれた、けれど確かな愛に満ちた朝。
麻里絵の胸には、初めて味わったあの日よりもさらに深い、凍てつくような絶望が居座っていた。
ただの失恋ではない。
結婚し、生活を共にしていた夫が、何の前触れもなく、離婚届を置いて消えたのだ。
訳がわからない。
どうしてこんなことに――
麻里絵には全く見当がつかなかった。
現実感がなく、涙すら出ない。
昨夜、確かに倫也と抱き合った。
いつもと変わらず優しく丁寧に愛され、この上ない幸福感に満たされた。
抱きしめられ、「愛してる」と囁かれたその言葉は、今も耳に残っている。
あれは嘘だったのだろうか。
朝はいつも通りスーツを着ていたが、倫也は今日仕事に行ったのだろうか。
麻里絵は徐に立ち上がって寝室へ行き、クローゼットを開けた。
スーツやシャツ、ネクタイピン――どれも、いつも通りに並んでいる。倫也の私物がゴッソリ消えている、ということはなく、少しホッとした。
希望なのか、恐怖なのか、自分でもわからない感情を抱えながら、リビングに戻ってバッグを探った。
スマホを取り出し、震える指で連絡先をタップする。
映画やドラマなら、こういう場面では必ず『現在使われておりません』というアナウンスが流れるものだ。けれど、当たり前のように呼び出し音が鳴り、二回のコールであっさりと繋がった。