愛のバランス
「久しぶり」
どこか色気を含む懐かしい声が耳に届いた。
それは、紛れもなく寛人の声だった。
「あの……夫から電話するように言われたんだけど……」
「そうか。良かった。とりあえず、今すぐ会いたいんだ。話は会ってから――」
寛人の声はどことなく切羽詰まっていて、麻里絵の心に微かなざわめきを生んだ。迷う間もなく、気付けば彼の指定したホテルのラウンジへ向かうタクシーの中にいた。
七年ぶりに再会した寛人は、髭を貯え大人の色気を纏っていた。
「麻里絵……会いたかったよ」
その表情は、麻里絵の記憶の中の彼とは、どこか違って見えた。彼がこんな風に落ち着いた大人の男性となっているのは、ある意味当然のことではあるが、あまりにも落ち着き過ぎているように思えた。
それは、彼が色んな経験を重ねて成長したということだろうか。
寛人はカクテルを、麻里絵はジュースを注文した。
互いの近況を語りながら、時間の流れを少しずつ巻き戻していく。
笑い合い、懐かしい記憶に浸っても、麻里絵の心の奥ではずっと微かなざわめきが続いていた。
なぜ彼は今になって現れたのか――
やがて話題は、二人が別れることとなったあの日に移った。
まさか本当にこんな話をする日が来るとは思ってもいなかった。
あの日、最後に麻里絵が言った言葉を寛人は覚えていた。
「『待ってるから』って言ってくれたよな」
麻里絵がグラスに落としていた視線を上げると、寛人の熱い視線が絡まった。心臓が鼓動を速める。
「部屋、とってあるんだ」
寛人が甘く優しい眼差しを向ける。けれども、麻里絵の心が揺らぐことはなかった。
「ごめん」
短く、けれど確かな拒絶。
「……そうか」
寛人は憂いを帯びた表情で呟くように言った。
どこか色気を含む懐かしい声が耳に届いた。
それは、紛れもなく寛人の声だった。
「あの……夫から電話するように言われたんだけど……」
「そうか。良かった。とりあえず、今すぐ会いたいんだ。話は会ってから――」
寛人の声はどことなく切羽詰まっていて、麻里絵の心に微かなざわめきを生んだ。迷う間もなく、気付けば彼の指定したホテルのラウンジへ向かうタクシーの中にいた。
七年ぶりに再会した寛人は、髭を貯え大人の色気を纏っていた。
「麻里絵……会いたかったよ」
その表情は、麻里絵の記憶の中の彼とは、どこか違って見えた。彼がこんな風に落ち着いた大人の男性となっているのは、ある意味当然のことではあるが、あまりにも落ち着き過ぎているように思えた。
それは、彼が色んな経験を重ねて成長したということだろうか。
寛人はカクテルを、麻里絵はジュースを注文した。
互いの近況を語りながら、時間の流れを少しずつ巻き戻していく。
笑い合い、懐かしい記憶に浸っても、麻里絵の心の奥ではずっと微かなざわめきが続いていた。
なぜ彼は今になって現れたのか――
やがて話題は、二人が別れることとなったあの日に移った。
まさか本当にこんな話をする日が来るとは思ってもいなかった。
あの日、最後に麻里絵が言った言葉を寛人は覚えていた。
「『待ってるから』って言ってくれたよな」
麻里絵がグラスに落としていた視線を上げると、寛人の熱い視線が絡まった。心臓が鼓動を速める。
「部屋、とってあるんだ」
寛人が甘く優しい眼差しを向ける。けれども、麻里絵の心が揺らぐことはなかった。
「ごめん」
短く、けれど確かな拒絶。
「……そうか」
寛人は憂いを帯びた表情で呟くように言った。