ロマンスに道連れ
保健室の来室カードに俺の名前を記入しているんだろうか、やることはしっかり保健委員ぶっているものである。クラスと出席番号を聞かれて大人しく答えれば、本当に一年生なんだねえと煽られてなんだか悔しい。
年上だろうが流れに任せればいつもこちらが優勢なのに、この人相手だと敵う気がしない。どう考えてもこの人は気の強いタイプで、俺に甘えてきたりする子じゃ絶対にないんだろうなと思えば俺も猫を被らなくていいので楽だった。
「サボりって書いていい?」
「頭痛ってことにしておいてください」
「うわー全然嘘」
「センパイもサボりじゃないんですか」
「失礼ね、わたしは本当に体調悪かった」
「ふうん」
ソファに腰かけている先輩のほうに近寄る。
机の上に置かれた来室カードの一番上を指させば、「それは私のだよ」と言われたので手に取って読み上げる。
「広瀬莉子」
「莉子センパイって呼ぶんだぞコーハイ」
「気に食わないっすね」
「りっくんって呼ぶからね」
「やだ。てか、紫外線アレルギー、ってなに」
症状を記入する欄の枠から外れたところに雑に書かれた紫外線アレルギーの文字。おそらくこの字はこの人じゃなくて浦野が書いたのだろうというくらい雑だった。俺の名前を書く彼女の字は、もっと丸っこくて女子っぽかったし。
紫外線アレルギーってなんだっけ。
太陽がだめなんだっけ、確かに今日の天気は夏にもなっていないくせに快晴で気温もここ最近で一番暑い気がする。
「太陽がだめなの」
「どうなるんですか」
「頭痛と眩暈と、蕁麻疹も出るしひどいとぶっ倒れちゃうかな」
「今日は?」
「朝は元気だったんだけど。登校中に体調崩しちゃって、しかも朝から浦野先生に遭遇しちゃって強制連行。なのに起きたら先生いないってひどいよねえ」
「寝すぎじゃね?もうすぐ昼だけど」
「はは、ね」
へらへら笑いながら俺の来室カードを記入している先輩は、本当にさっきまで体調悪かったのかと思うくらい十分に元気だった。
「璃月は、彼女持たない主義なの?」
「まあ、そうっすね。誰でもいいんで別に」
「好きな子とかいないの?」
「いたら多分こんなことしてないっすね」
「それもそうか」
「まあ、そういうのめんどくさいしよくわかんないんで」