ロマンスに道連れ
予告なしに扉がガラッと開かれた。
その音に二人同時に振り返れば、白衣姿の長身が俺たちを捉える。そんな彼を捉えた途端彼女はわかりやすく表情を変えて嬉しそうに笑った。
たった、それだけで。こんなにも簡単に好意が現れている女なんているんだ、と呆れるくらいには、一瞬で莉子センパイの片想いの相手に気づいてしまった。
「よくなったか?3回チャイム逃したけど」
「全然気づかなかった、もう元気です」
「で?吉野は何しに来た?サボりか?」
「あたまいたいでーす」
「璃月クンは女の子連れ込んでました」
「まじか、ベッドがあるからってここを選ぶな」
「不在って書いてたしいっかなって」
「よくねえ、いないって書いてるんだから入るな」
相変わらず生徒との距離感が近い教師である。
若いのもそうかもしれないけれど、喋り方とか先生らしさを感じないところが話しやすくてさぞ生徒に人気の先生であろう。
浦野、と呼び捨てにしてもちっとも文句を言わない男だ。むしろ先生とつければ気味悪がられるくらいである。
俺抜きで進められていく会話をぼうっと眺めている。
ふたりの仲が異様にいいような気がしたのは、彼女が3年間ここに通っているからだけではないらしい。
莉子センパイのお兄ちゃんと浦野は大学の同級生で、当時からセンパイと浦野は知り合いだったらしい。たまたま浦野の職場と莉子センパイの選んだ高校が同じだったが故、過保護なセンパイの兄ちゃんは浦野を利用して監視しているとか何とか。
わかりやすく彼女は浦野の前で“女の子”になっている。
俺の前じゃちっともかわいい顔なんて見せなかった癖に、ニコニコへらへらしている。
そんな彼女をぼうっと観察していたら、ばっちり目が合ってむすっとされた。なんで俺にはそういう顔ばっかしてくるの、この人。
「授業もうすぐ終わるし、やっぱり自分で教室戻ろっかな」
「ん。ちゃんとズボン履けよな、廊下の日差しにもお前なら負けるぞ」
「はーい、ちゃんと教室戻ったら日焼け止めも塗り直すし薬も飲むって」
「食欲は?弁当しっかり食えよ」
「朝ごはんもちゃんと食べたのにおなかすいてるから大丈夫だよ、心配性だな」
「俺の前で体調誤魔化そうとしたからな」
「はは、全部バレてる」
「あたりまえ」
「まあ今日はこの璃月クンに教室まで送ってもらうので、ぶっ倒れたら抱えてもらって帰ってきますね」
「は、なんで俺が」
「いいじゃん暇人、3年フロアまでついてきな」
「センパイについてくほど暇じゃない」
「女の子と遊ぶ暇はあるのに」
「だっる、って言いそうになりました」
「言ってるよそれ」