ロマンスに道連れ
ニコニコしながらお構いなしに俺の寝そべっているベッドに腰かける先輩は、なんとも注意力に欠けている。たった今女を襲おうとしていた男に近寄ってくるなんて脳みそ足りてないんだろうな。
まあ、マジでこの人襲うくらいなら学校中の女子に声かけるけど。
この学校で嫌いな女子ランキング堂々の一位だ。授業中教科書で叩いて起こす現国の先生よりキライ。
「あー、今想像してたでしょ。見せないよ?」
「頼まれても見たくねえし」
「強がるなよショーネン、女の趣味悪いぞ」
「そのままそっくりお返しするわ」
「はー?なんでよ」
わかりやすくむすっとして、可愛げのない表情を惜しげもなくこちらにさらしてくるからブサイクだって言ってやろうと思ったけどさすがに俺のポリシーに反するから言わないでおく。
「うわ吉野、また来てんの。お前はまたサボりか?」
不在の張り紙をもって入ってきた白衣姿の男が俺を見てあからさまに眉を顰める。
そんな先生の姿を見てあからさまにテンションが上がるのはこの女だけだ。
「俺頭はイイんだよね」
「授業態度がよくない限り成績は伸びねえぞ」
「テストで点取れれば3はくれる」
「そう言ってられるのも1年までだって言ってやれ、数学3年で挫折した広瀬」
「先生それ禁句って約束した!」
「あーうっかりうっかり」
「期末テスト先生に教えてもらわなきゃ補習になるからよろしくね」
「自力でやる努力くらいしろ」
だるそうに白衣のポケットに片手を突っ込んで、もう片方に抱えた資料を机の上に置けば、白衣を脱いで当たり前のようにハンガーにかけている。それ脱いだら保健医になんて見えないんだけど。
対して俺の横たわるベッドから跳ねるように立ち上がった彼女は腰を下ろした先生に駆け寄った。
まるでさっきまでの俺に対する態度とは正反対だ。たとえるなら俺の前では敵を目の前にした狂犬で、先生の前ではぶんぶんしっぽ振り回す子犬である。