爪先からムスク、指先からフィトンチッド
 そういわれてみると確かに付き合って欲しいと言われた記憶があるがそれは実験に対してだと思っていた。足をマッサージされる感覚に気持ち良さを感じていたし、手料理も温かいものを食べさせたいと思い保温カップに入れて野菜スープを持参しテラスで食べたことが一度ある。

17 恋人としての愛撫 

「すみませんでした。ほんとに……。でもどうして私なんかになんで、そ、その、告白してくれたんですか? 薫樹さんみたいな人が私に告白なんて……想像もできないし、ありえない。あなたは仕事も一流で有名で、あの、すごくかっこいいし、みんな憧れてて。噂もいっぱい聞きました……。カフェでも一回見かけました。すっごい綺麗でファッショナブルな人とデートしてるところ……」
 はあっと大きなため息をつき、「初めてってなんでも上手くいかないもんだな……」と薫樹は苦笑いする。
「君のことは香りから好きになったから、どこがって言われても納得してもらえないかもしれない。でも会社で君のことを覗きに行ったよ。真面目で綺麗好きでいつも笑顔で見ていて気持ち良かった。カフェで見たっていう女性はうちの化粧品のイメージガールで何の関係もない。好みでもないしね」
「私の香り……」
「うん。君の香りが好きだ。初めて人の匂いが好きだと思った。君がまだ悪臭だと思っていた頃の香りですら好ましい。ただあの頃のままだと生き辛いだろうとは思ったけどね。今はすっかり自信に満ちていて眩しいくらいだよ」
「そんな……全部、薫樹さんのおかげです……なんか……信じられない……」
「ついでに言っておくと女性と付き合ったことは一度もない。アプローチされることは多かったけど、なぜか心が動かされなかった。君の香りを嗅いで初めてわかったんだ、匂いが違うんだってね。それも表面的な匂いじゃなくて根本的な」
 夢の中の出来事のように薫樹の話を聞きながら芳香も自分の想いを話す。
「薫樹さんの側にいる間、夢を見ているようでした。モルモットでいいと思ってた。でもシートも完成しちゃって……。あのまま会社に居ても良かったんですが薫樹さんの仕事ぶりを見てると私もちゃんとやりたいことやらなきゃって。で、植物に向き合ってみたいなって」
「じゃあ、僕のことはどう思ってる?」
「え、あ、あの、それはもちろん、す、好きです」
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