爪先からムスク、指先からフィトンチッド
仕事帰りの芳香と真菜はこれからカフェ『ミンテ』でゆっくり過ごすつもりのようだ。
「やあ、芳香ちゃんと、えっと、『銀華堂化粧品』の社員さんだよね?」
涼介は言葉も交わしたことのない真菜のことを覚えている。
「ええ。そうです。よく私のことご存じでしたねえー」
感心する真菜に「そりゃあ、可愛い女性は一回見たら忘れないからね」と涼介は爽やかに笑顔を見せる。
「ふふっ、ありがとうございます」
「じゃあ、私たちここでお茶しますから、また」
「ああ、また週末に」
「お店に来てくれてありがとうね」
頭を下げて芳香と真菜は店内に入っていった。

涼介は「うーん」と腕組みをして首をかしげる。
「どうかした?」
「いえね、ここんとこ素っ気ない女性が多いなって」
「そうかな」
「そうですよ」
「ふむ」
芳香も真菜も環もまるで涼介に関心がない様子に涼介は少し不満げだ。
「モテ期が終わったってことかなあ」
「そんな期間があるのか」
「ええ。人生には3回モテ期があるようですよ」
「ふむ。君は面白いことをいっぱい知ってるな」
「やだなあ。常識ですって。さてなんか場所換えて飯でも食べません?」
「ん? ああ、いいよ。しかし君も忙しいだろうによくうちの会社やらに来る暇があるね」
「え、ええ、まあ、ちょっと色々心配もありますしね」
「そうか。無理しないように」
「そうしますー」
「じゃ、この近くの串屋いきましょうー。前、芳香ちゃんといったとこですよー」
「うん、いこう」
涼介は薫樹と環が接近しないようにできるだけ見張るつもりだ。そして早く薫樹と芳香が結ばれてほしいと親心のように願っている。

11 続・涼介のお節介

手がけている仕事のキリをつけ涼介は『銀華堂化粧品』に向かう。今日も薫樹と夕飯を共にしようと思っている。明日は恐らく薫樹は芳香と過ごすだろうが、平日はいつ環がやってくるかわからない。天涯孤独で恋人を失くした環のことを考えると少し罪悪感が沸くが、薫樹には芳香と結びついていてほしいと思っていた。薫樹と芳香の出会いを知り、やっと巡り合えた二人が結ばれることは涼介にとっても唯一の相手と結ばれる理想的なもので、邪魔されたくなかった。

玄関が見えると、長身の女が見えた。環だ。(ほらみろ、やっぱりな)
警戒は当たったと涼介は環に近づいて声を掛けた。
「こんにちはー、環さん」
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